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次の日の放課後、弟と校門の近くで待ち合わせをする。こういう時、姉弟で同じ高校に通っていると楽なんだ、としみじみ感じた。
そういえば、夜にスイーツ食べちゃったけど、ニキビとか大丈夫かな、できてないよね?
鏡でおでこの部分を確認していると、「何してんの」と後ろから声をかけられた。
振り返ると、制服を着崩した弟が冷たい目線を送っている。そして私の横を歩き始めた。
「くだらない用事だったら速攻で帰るから」
「だって空嶋くんが『待ってる』って……」
言ってくれたから。行くしかないじゃん。
彼を待ちぼうけさせるなんて、何でか理由は分からないけど、私には出来ない。
何の話か分からない弟は小さく舌打ちし、私は重い足取りに溜め息を吐いた。
また「ピアノを弾いてほしい」と彼に言われたら、私はどうしようか。
少なくとも6年のブランクがある。
習っていた時は、鍵盤を見なくてもスラスラ弾けた。だけど今は、指が思い通り動かないだろうし、鍵盤の位置だってあやふやだ。
完璧な演奏も、彼が期待するような音も。
多分――今の私には無理だ。
習ってたなんて言わなければ良かった、と思っている内に駅前に到着した。
「それで、どこに行くのさ?」
弟の質問に答えようとした時、遠くから微かにピアノの音が聞こえて、目を見開いた。
周囲が騒がしいからか、ピアノの音が小さいからか、弟には聞こえていないみたいだ。
耳をすましていると、「どこ行くのか聞いてんじゃん」と弟がイラついた声を上げた。
無我夢中で走った昨日のことを思い出し、
「多分――こっちだ」
そう言って、リュックのベルトを強く握り締めた私は、音の便りを探しに駆け出した。
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