Chiopsticks

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 「そうだ海色、また今日から部活始まったから、一緒に帰れなくなっちゃった」  碧は寂しそうに笑って、切れ長な瞳を細めた。陸上部である彼女は、次の高体連で部を引退することになっている。  「うん、分かった。部活頑張ってね」  そう言って私は控えめに微笑んで、弁当のしょっぱい卵焼きを口に含んだ。         ******  「放課後に寄り道をする」ことが日課になっていた私は、駅前のコンビニに寄った。  友達と一緒に帰る時は、本屋や服屋を見たり、ゲームセンターで遊んだりしたが、他の友達は部活や生徒会に所属していたりするので、頻繁に遊びに行くことは無かった。  代わりに一人の時は、コンビニに寄ってスイーツを買ったり、カフェでまったり過ごすことが多い。至福のひととき、である。  今日は新メニューのスイーツを買って、そのまま家に帰るつもりだった。  本当に、そのまま家に帰る予定だったのだ。  私は足を止めた。ザワザワと騒がしい人混みの中で、細く響く音色に、心が奪われたのだ。  気が付いたら走り出していた。無我夢中で走る私に、誰もがすれ違う度に目を向ける。  もう、何やってるんだろう私。  長い髪を乱して、汗までかいて。  あんなに嫌いだったのに、離れようと思っていたのに、結局は気になってるじゃん。  もう何年も聴いていなかった音。  嫌がって離れて、遠ざかっていた音。  心を震わすような音。心が震えるような音。  ――水上で跳ねるような、ピアノの音。  「あの日」なんて滲んでしまうほどの音色を、私は必死に探し回っていた。
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