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エリーゼのために
「はあ~美味しそ~」
今日買ったコンビニスイーツの写真を撮り、碧に写真を送った。上に乗っている生クリームと苺、そして粉砂糖がキラキラ輝いている。
宝石みたい、と見とれていると、横から弟の氷雨が「姉ちゃん太るぞ~」と指摘してきた。
そう言われると、何だか罪悪感を感じる。
至福のひとときが、台無しになったみたい。
何かと弟が口を出してくる感じ、苦手だ。
「氷雨には関係ないでしょ」
「姉ちゃんは周りのJKみたいに、もう少し身の回りに気を遣ったら?」
生意気な口を叩き、弟は棒アイスを食べ始めた。私はその後ろ姿をキッと睨み付ける。
ダイエットしろだの、オシャレしろだの、口うるさい母親のようだ。実際は母親よりも、うるさい感じがする。
そりゃ夜に食べているから、カロリーぐらいは気にしてるけど。
よく碧と食べ歩いていたが、運動部である碧はスタイルが良い。それに比べて私は、帰宅部である上に、運動など全くしない身。
いや、碧と比べる時点で間違っているのか。
ムスっとしていたが、スイーツを一口食べるだけで「美味しーい」と声が漏れる。
その様子を見て弟は吹き出した。そんな弟の姿を眺めて、ふと私は思い出すことがあった。
――ピアノのこと、最近言わなくなったな。
ダイエット、メイク、オシャレ、勉強。
弟は何でも口うるさく指摘してきたが、ピアノに関しては何も言わなくなった。
私が反論しないから、諦めたのかな。
それとも私が辞めてくれて、本当は嬉しいとか、心の中では喜んでいたとか?
心の中でモヤモヤを抱えていると、再び上から目線の口調が降ってきた。
「それより、姉ちゃんは受験生だろ。予習復習の一つや二つ、やらなきゃダメじゃん」
「あ、後でやるもん。あんたこそ、ピアノの練習しないとダメでしょ」
そう言って張り合うと、弟は目を見開いた。
もう練習を終えたのかな。
それとも変なことでも聞いたかな。
それともアイスでお腹を壊したのかな。
弟が練習してるところ、ピアノを辞めた時から見ていない。練習を始めたら、ヘッドフォンを付けることが習慣になっていた。
弟と先生は上手くいってるのに、私は――とか、色々塞ぎ込んでしまうので。
考えてみたら、弟にピアノの話を自分から振るなんて、いつぶりだろうか。
「……逃げたわけじゃないのか……」
「え、何? ごめん聞き取れなかった」
「ちゃんと練習したよ。もう行っていい? 数学の予習しなきゃ」
「あ、ちょっと待って」
私が引き止めると、弟は眉間にシワを寄せて「何?」と不機嫌そうに聞く。コホン、と一つ咳払いをして、弟へ命令を下した。
「明日の放課後、私と一緒に付いてきて!」
「はあ!?」と弟は文句があるように声を張り上げる。文句なんて言っても知りません。
空嶋くんのところへ一人で会いに行くのは、何となく怖かった。碧は部活があるから誘えない。そうなると頼れるのは弟しか居なかった。
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