スコール

6/13
前へ
/142ページ
次へ
 5分って、先生、どこに行ったんだろう…。 このまま電車に乗るのは、かなり勇気が要る気がする。  改札のほうを見渡すと案の定、電車が遅れているアナウンスが、雨に濡れた人たちの間から聞こえてきた。    せっかくの、楽しみにしていた金曜日。 ずぶぬれで、先生が戻ってきてくれるのかもわからない。  わざとゆっくり歩けば、15分以上あるはずだった道のりも短くなってしまって、ついてないと浅くため息をつく。  蒸し暑い空気の中でも、濡れてしまった服に風が当たると、体が冷えてくる感じがした時。 「お待たせ」  5分よりは時間が経っていたかもしれないけれど、先生が戻ってきた。 「着替えておいで」 差し出された、黒いTシャツ。  予想したいなかった展開に、どう反応してよいかわからず先生の顔とTシャツを見比べていると、困ったように先生が言った。 「ごめん、無難なのにした」  …そういうことではないけれど。 まさか、着替えを買いに行ってくれていたなんて思わなかった私は、先生の言葉に思わずTシャツを受け取ってしまう。 「着替えたら、飯食ってこうか。腹減ったから付き合って」  着替えていいのかさえ、まだ決められないでいたのに、食事がついてきた。  背中に当たる風が、冷たい。  先生は、私の返事を待っている。 「すみません、Tシャツ、お言葉に甘えます」  私は、とりあえず電車に乗れることが可能な状態にさせてもらうために、トイレに急いだ。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

431人が本棚に入れています
本棚に追加