スコール

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 外の凄まじい雨はすっかり止んで、空には月が見えていた。上品な金色のカーブは、まだ細いのにビルの明かりに負けないくらいに輝いている。    現実逃避するように、そんな夜景を先生の後ろに眺めながら、私は緊張を飲み込んでいた。    先生と向かい合うテーブル。  下着はまだ濡れた感じがしていたけれど、着替えたTシャツのお陰で、体が冷える感じは無くなった。ユニセックスのLサイズは、私にはだいぶ大きめだで、ふんわりと空気に包まれている感じがする。  着替えた私は、やっぱり帰ろうと思って食事を断る理由を考えながら、トイレの入り口で待っていてくれた先生に近づくと、それを見透かしたように言われた。 「悪いけど、今日昼抜きだったんだ。午前の最後に緊急オペが入って、終わってすぐ成田整形行ったから。このままだと倒れそう」  こんな風に言われたら、断るための理由が見つけられずに、先生の後に続く。  レストランの並ぶフロアで、先生は緑と赤のディスプレイが引き立つイタリアンの店の前に立ち止まると“いい?”と視線を向ける。  私は観念して頷いた。 「嫌いなものある?適当に頼んじゃうけど」  先生は私が、無いです、というのを確認して、パスタやピザ、私には温かい紅茶を注文した。 「あの、Tシャツ、お幾らでしたか?」  先生が、ふっと笑う。 「千菜ちゃんらしいけど、学生さんからTシャツ代、もらわないよ。僕、一応医者だし」 「でも」  先生も、私とお揃いのTシャツに着替えていた。 「とにかく急いで最初に見つけたこれ、2枚組の安いのだったし。…てか、おじさんとお揃いで、悪いね」 「そんな。でも、頂くなんて」  そんな、といったのは、”おじさん”への否定のつもりだった。   「じゃあ、1杯だけビール飲んでもいい?若い女の子相手に、いきなりビールなんて、引かれるかもだけど」  先生はそんな風に気を使う人。そういうところが、患者さんにも伝わるのかもしれない。 「引きません、全然。気にしないでください」  先生は、ありがとう、とため息を誘うような笑顔になると、店員さんに手を挙げた。
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