431人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女の瞳は、少し酔いを含んでいるように潤んでいた。きらきらと揺れて、思わず目尻にキスしたくなる程、綺麗だった。
応援するって、誰を?…お二人って、誰と誰だ?
自分も、バーボンをロックで2杯飲んだので素面とは言えないが、思考がおかしくなる程ではない筈だ。
しかし、酔いばかりではなく、いつもより近い距離で彼女の瞳を見ているせいで、心拍数がやばい。いつもより、20は多いかもしれない。
だからって、聞き間違いはしないと思うけど。
彼女は、必死に何かを堪えるように笑顔を作って、俺を見つめている。
「…歩こうか」
昨日もかなり手際よく、普通なら難しいと思えるような手術をこなした。
一時、患者の状態が落ちて周囲のスタッフは焦っていたけれど、俺のシュミレーションの想定内だったので、時間はかかったけれどやばいとは思わなかった。
仕事でも、こんなに頭の中が整理できない、体と頭が分離するような感覚は、経験したことないのに。
駅を出て、彼女の家に向かう。場所を知らない俺は、少し下がって彼女の歩調に合わせる。
彼女の言葉の意図がわからず、手が繋げない。
駅から10分程歩くと、街灯に照らされた小さな公園が見えてきた。
「ここです」
彼女は、公園の反対側にある可愛らしい外観のマンションを見上げた。
いきなり、部屋には行けないよな…。
心地よくなった夏の空気を持った風が、公園の木々を揺らす。
「少し、話できる?」
彼女は、困ったように俺を見上げる。あわよくば、部屋にあげてもらえることを期待した。
「…そこの公園でもいいですか?」
彼女は、公園のベンチを指さした。
やっぱりそう簡単にはいかないか。
彼女のガードの硬さに、ほっとしたようながっかりしたような、複雑な心境になった自分を隠して頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!