栃木 3 君と僕との物語

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月日は・・・瞬きの間・・・ 白無垢の如くの君の髪、 眩しく輝るは君の歳月。 風に舞い、降り積もる紅葉如く 君の傍らには孫に曾孫に・・・。 仕事を停年した邦子夫婦が 那須塩原の家へ戻り、 田畑を耕す心配がなくなっても 君は毎日野良仕事。 「働かないと身体がダメになるわ」 そう言いながら 心配する邦子たちを笑ってる君。 でも時には孫たちと出掛けたり。 君が楽しんでくれると 僕はたまらなく嬉しい・・・。 「今日は蛇尾川に曾孫を連れて  出掛けましたよ。東京から  家族連れがいらしてて・・・  ・・・羨ましかったわあ・・・  私もあんな風にあなたと邦子、  もう一人くらい男の子をもうけて  家族旅行をしたかった・・・」 参道での君の呟き・・・。 ああ・・・そうだね・・・ 僕もそんな時間を夢見てた・・・。 畏れ多い夢ではなかったはずが 僕たちには叶わぬ夢だった・・・。 「平和な時代になりましたよ」 ああ、続くと、続くといいね・・・。 なんだか僕の声が近くなったのか 君はコクコク頷いて・・・。 でもまだ少し、もう少し 君には・・・この “物語” を 続けてほしいんだ。 たった二人で始まったのに こんなに幸福が増えた僕たちの物語、 君にはまだ少し、もう少し 健やかに続けてほしいんだ・・・。 そしていつか 僕が行きたくなったとき、 迎えにいくよ、あの道へ。 そのときは飽くまで語ろう、 あの大山参道で・・・。 其処は君と僕の始まりの場所・・・。 世界でいちばん美しい場所・・・。          ー 3・end ー
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