栃木 1 あなたが好きだった

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そこからまた少し、地図を頼りに 車で移動していくと・・・ 現れたのが“山縣農場”。 「山縣・・・山縣有朋、  第九代内閣総理大臣ね」 「そうや」 「開拓目的の華族農場・・・  本では読んだことがあるんやけど  見るのは初めてやわ」 「僕は史学が得意やないから  そこのところは詳しくないんやけど」 「確かね、後の方では矢板市長も  してはった方がいるのよ、山縣家は」 「歴史オタクはスゴいな。  助かるよ、解らんことが  すぐに解決する」   “オタク”なんて言葉を使うけど 亮太はカラかいで その言葉を言う人ではない。 他人が興味をもつことにも 熱心に耳を傾ける、 そういう人。 景色を楽しみながら・・・ 私の薄い知識に相槌をくれながら 二人で歩く・・・。 ずっとずっと思い描いていた時間。 青い空に大木が伸びて・・・ ここがかつて 何も育たぬ、寒々しい 荒れ地であったとは思えない 豊かな地面を二人で踏みしめながら ゆっくりゆっくり・・・。 そして、 「・・・洋館?!」 私達の前に現れたのは “山縣有朋記念館”。 「伊東忠太工学博士の建築だ。  築地本願寺や平安神宮の建築でも  有名な博士で・・・」 「忠太に亮太・・・ふふ」 「ああ、名前も似てるやろ?  ものスッゴい尊敬してる建築家なんや!  見ることが出来て、嬉しい!  ああ、嬉しい!嬉しいなあ」 クリスマスに望み通りのプレゼントを 貰った子供みたいに 亮太の瞳がキラキラして また胸がキュウと鳴った・・・。 建築という自分の学問に 真摯に向かう亮太が大好きだった。
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