栃木 1 あなたが好きだった

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「これはそもそも小田原にあったのを  大正11年に移築して・・・」 それから亮太は その建物の魅力を 熱心に教えてくれた。 「子供のときは大工になるのが  僕の夢やったんや。  お城みたいなデッカい自分の家を  建てたいといつも思ってた」 一瞬で亮太の夢の住人になるのを 想像してまた胸は高鳴る・・・。 「建築学をちゃんと勉強をしてみて  建物の、なんていうかなあ・・・  奥深さ・・・ん、なんやろ・・・  偉大さっていうかなあ・・・  釘とか柱一本から  スゴいものが出来るやろ?!  とにかく、僕ももっともっと  もっともっと勉強して、しまくって   歴史に一つでも残る建築物を  絶対に建てたいって思うてる!  今日も、この建物を見て、ホンマに  ホンマに・・・そう思う!」 それが亮太の望みなら ・・・だったら私は・・・  ーそんな亮太をいつまでも   隣で応援していたいー 言葉にはしなかったけれど 私の恋心は、全身で彼に 想いを囁いていたのだろう。 春の陽射しに包まれて・・・ なんだか惜しいみたいに あてもなく二人、歩いて歩いて・・・。 大きな木の下で 亮太の腕が肩に廻って 緑の香るくちづけ。 初恋が幕を開いた日。 この日が・・・ 私の青春時代で一番輝いていた日。
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