栃木 1 あなたが好きだった

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大田原に暮らす伯父夫婦が ふいに宇都宮のアパートへ やってきたのは 修士論文に追われる冬の午後だった。 「二人揃ってなんてどうしたの?  宇都宮で買い物でもしていたの?」 私は普段と変わらぬ返答があると 呑気にコーヒーなど いれていたのだが 「知らせなければならない  事態が大阪で・・・」 「気持ちをしっかりもって  聞いてちょうだいね」 伯父夫婦は凍てついた面持ちで 母が病いに倒れたと・・・、 治癒の目処すらたたない病いだと、 ・・・私に告げた。 気持ちの整理出来ないままに 伯母を伴い、すぐさま大阪へ。 ・・・話の通り、大阪の実家では 想像より深刻な母の病状。 父親や飼い犬まで気力が下がり、 門灯すら灯さぬ家の有り様・・・。 そして、担当医の説明は 私の修士論文を止めるには 充分な内容だった。 助かっても後遺症の 心配が残る脳の病い・・・。 まずは手術が済んだ今、 上手く目覚めるか否かという。
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