取り敢えずの終幕

1/1

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

取り敢えずの終幕

〜第8部〜 そんな話が聞こえ始めたのは小学4年生、2学期の終わり頃だった (その頃は3学期制だったな~) 夏休みに少しだけ両親の家で過ごしていた時かに母親が、「もし引き取られるならどっちに付いていく?」と聞いてきた この会話自体は何年も前から度々出ていたので、「父親が良い」と軽く答えた 本当はそのまま施設で卒園まで居たかった それくらい僕にとっては施設の生活が普通になっていたし、ちょこちょこトラブルは有るけど寮の皆は家族の様だったから居心地はとても良かった (まぁ、思春期だとまた違ったかもw) そうは思っていてもやっぱり親と暮らす、というのも魅力ではあったな~ 月1くらいで数日一緒に過ごしていた時は、好きな物を食べさせてくれたし、ビデオテープ(あの頃はVHSだったw)もいっぱい観させてくれた どれも施設では叶わない事で、子供にとっては天国の様だったからねw その間のお金はどうしている、とか仕事は何をやってる、とかは全く分からないし家ではそう言う話も無かった ただ仕事をしている所は見えなかったし、2週間一緒に居た時はずっと家に居たから・・・まぁ、ね? そんな訳で現実を知らない僕は、引き取られるなら色々買ってくれた父親が良いと思っていた まぁ、その頃は全く知らない法律からすると、仕事をやっていない父親にはどうやっても親権は無いから、母親に引き取られるのは明白だったけどね~ とかくその時はそう言った話も無く、いつも通り会話は終わった で、職員からその話が有ったのは2学期最後の週で、まさに寝耳に水だったな~ 急に慌ただしくなって、どんどん話が決まっていったみたいで、その話の時には別の学校に転校も決まっていてもう訳の分からない状態だった 取り敢えずもう友達には簡単に会えない、と言うのは分かった だからまず始めたのは学校の友達に別れの挨拶をする事だった 好きだったあの娘にも、ずっと遊んできたあいつにも、ゲームしに行ってはオヤツをご馳走になったおばさん(怒られるかな?w)にも みんな驚いてくれたし、残念がってくれたし、こんな形でも親と暮らせる事を喜んでくれた 改めてこのまま施設で卒園まで居たいと思ったな~ でも、親と暮らせる生活への期待が大きく、楽しみな気持ちも大きかった やっと普通の家族になれるんだ! ずっと胸の奥にあった想いが叶う、その事だけが先走っていて希望に満ち溢れていた だからか、母親から聞いた「父親だけ別で暮らすよ」と言う話にも大きな不満も疑問も無く、今だけだろうな~と簡単に考えて聞き流したのは そしてその日が来た 約6年間、喜怒哀楽しながらも皆と過ごしてきた施設を去る日だ 僕は希望に目が眩んでいて涙も悲しいという気持ちも無かった 職員もみな笑顔で、「これから幸せにね~」と送ってくれた 寮の皆も、自分達の事も有るのに「良かったね!」と笑顔で激励してくれた これからは「普通の家族」になって、今まで想い描いていた生活を楽しく送っていけるだろうな~ 今からは親に何時でも甘えられるんだろうな~ 今日から何をしていこうかな~ 僕には楽しく明るい未来しか見えなかった まぁ、そんな夢は数週間で覚めるんだがw 〜第8部 完〜
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加