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海水浴場に指定されている区域から、大きな岩場を挟んで反対側は、水上バイクやサーフィンが出来る広大な区域になっている。
清和はその岩場の上から、そちらを眺めた。
綺麗なスプレーを上げるボード。しっかりと丈夫で健康そうな体の男達。小さなボディボードを抱える女達。仲間内で楽しそうに歓声を上げ、笑い合う。
その全てが、清和にとって遠く、美しい幸せの世界だった――。
この場所が好きなのに、ここに来るたびに、清和は苦しくも幸せな気持ちになる。
同性が好きな自分を認めていない訳じゃない。ただ、狭い町の中、兄弟の様に育ち、親友の様に仲が良い同い年の海美と、恋愛とは関係なく、家族意識の感覚のまま結婚するのだろうと、周囲のみでなく自分達ですら互いに思っている。
互いに言葉にもせず、周知の事実だけで成り立つ二人の関係。
『清和が欲しいものは何?』
幼い頃から問われ続けた言葉。
自分の本当に求めているものに気付いた頃から、清和は何かを欲しいと言わなくなった。
清和が本当に求めたもの。魅かれたもの。
海に来る男達の美しい肉体。
触れてみたいと。その海水で洗われた、濡れる質感を感じてみたいと、そう求め続けた。
実際、本当に幼い頃は手を伸ばした。
清和の小さな手に触れられても客たちは嫌がりもせず、幼い清和を可愛がる。撫でられる大きな男の手が嬉しい。そして、男の肌に触れた自分の手に残る熱に、自分の奥底で何かが反応している。
トクトクと跳ねる鼓動は、間違いなく、憧れに触れる緊張感だった。
少しその意味を理解し始めた頃には、自分の性癖までをも理解した。
本当の自分は、他人とは触れ合えない。
だから本当の自分には遠い、〝本当の幸せ〟を見つける努力を放棄した。
『清和、クリスマス、サンタさんに何をお願いしたの?』
両親や海美、言葉が話せるようになった清真に問われる度に、清和は困るようになった。
自分がどうしたいのかなんて分からない。自分にさえ分からない事を、神様にだって願えない。
子供達の元に喜びと幸せを運ぶサンタクロースでさえ、欲しい物を必ずくれるとは限らない。
思春期を迎え、勝手に抱えた自分の“秘密”が鬱積し、爆発しそうになるたびに、このまま周囲に話してしまおうかと思った。しかしその度、隣で笑う海美や清真が、どんな顔をするのか。酒に酔う度、清和と海美が結婚するのだと笑い合っている互いの家族から、どんな視線を向けられるのかと、怖くなった。
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