―海とトナカイとサンタと―

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 あの日も。 そんな恐怖と苛立ちにも似た感覚を抱え、中学生の清和はいつものように海美と二人学校からの帰り道を歩いていた。  波打ち際まで少し距離があり、浜辺よりも高い位置にある海沿いの歩道は、夕日色に染まり、歩く二人を逆光で影色に染める。  いつもの帰り道に、いつもの風景。  大きな岩場と岩場の間から見える浜辺。その間から、光り輝く夕日が一線に差し込む。  ――あぁ、今日も綺麗だな。  清和はお気に入りの風景を前に足を止めた。  鬱屈し、ドロドロと重い澱に変化しそうな感情が、この瞬間を目にしている時ばかりは、穏やかな温かいものになる。  自分を少しも追い詰めず、受け入れてもらえたような。ありのままの光が、唯一のものとして自分を受け入れてくれる。そんな感覚に救われる。 「本当に清和はここから見る風景が好きよね」  そんな海美のからかい声も、この時ばかりは気にならない。  そうして眺めやる風景の中に、いつもは見えない小さな人影が二つ。  寄り添うように、清和も見ていた、キラキラと眩しい光景を眺めている。  岩場を越えないと来られないその浜辺は、まさに二人だけの世界だった。  波打ち際で、寄り添い佇んでいた二人は、いつしか向かい合い、どちらともなく額を寄せ合っていく。  大切な何かを抱き合うように、互いの手を繋ぐと、そのまま、光の中で唇を重ねた。  キラキラと幾つもの小さな光を波間に反射させ、穏やかな風はキスをする二人を包む。  見ているだけで幸せな風景。  ――神様に祝福されているみたいだな。  幸せのお裾分けを貰った気分で、二人に気付かれない内にと、清和は再び家路を歩き出す。 「ね、あれ男同士だったわね」  温かい気分は、そんな海美の言葉で一気に吹っ飛んだ。 「え?」  振り返った海美の顔は明らかに嫌悪を含んでいた。  男性同士の光景を違和感もなく眺めていた自分よりも、海美の表情に、頭を殴られた気がした。  いつも傍に居る海美の、言葉にしない嫌悪。  あるがままを話してしまいそうだった自身の心が、急激に凍っていくのが分かった。  本当の自分を知られ、海美にだけでなく、清真や周囲の人間から、こんな顔をされるのは耐えられない。ただでさえ関係性の密な田舎だ。後ろ指を指されるのは、自分だけでは済まされない。  清和は自分の中にある秘密を、外に出さない事を決めた。  ただ、その日見た光景は、思い起こすたび、清和を幸せにしてくれた。  あの光に包まれた二人の幸福感。  カミングアウトはしないと決めた自分には、恐らくやっては来ない幸せな瞬間。幸福な光。  何度も、何度も、その光景を思い出しては、もう一度、その温かな光に触れてみたいと、いつしか清和は思い描いた光を絵にするようになった。  あの幸せを具現し、この目に映してみたくて。
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