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霞が取れてみると、二人の兄弟は口元と顔の輪郭が似ているくらいで、後はまったくと言って良いほど似ていない。雰囲気などは正反対に近く、生命力溢れる淩次に対し、弟の方はフワフワと流れる雲のようだ。
「あ、おばちゃん? 海美だけど、今からずぶ濡れの人間が二人行くから、お風呂の用意お願いします。一人は清和ね」
気付けば、海美が勝手に一ノ瀬家へ電話を掛けている。手には岩の上に脱いでいた、清和のパーカーと靴、〝サンタ〟のクロッキー帳を持っていた。
「えぇ? 違うよぉ、掃除サボって逃げ出して、その先で溺れた淩次義兄ちゃんの弟助けたんだって。そうそう。うんサボって、逃げたの」
「おまっ! 海美、何言い付けてんだっ! 伝えるのはそこじゃねぇだろ!」
掴みかかろうとした腕を、逆に清真に掴まれ、海美のスマホは東琉の手へと渡る。
「東琉です、おばちゃん。ゴメンね、迷惑かけるけど。うん。そう、淩ちゃんの弟。それで、急で申し訳ないんだけど、お宿の方に泊めてもらえる? え? イイよイイよ。お宿のお客さんで。しっかり定額のお宿代頂いてね」
(鬼だ……義理でも弟……)
「おう、そうして下さいって念押しといて、東琉。一ノ瀬のおばさん人良いから」
(そして、実の兄も鬼)
本人そっちのけで進む話に、当人は笑ったまま抗議する事もなく、もうすっかり痛むのを忘れた清和の頭をまだ撫でている。
「淩ちゃんもそうしてって。大丈夫、この子なに気に稼いでるらしいから。はーい、じゃ今から帰ります」
切ったスマホを海美に返すと、東琉は清和達を振り返った。
「と言うワケで、清和にサンタの事は任せるから」
「は?」
「掃除サボった罰ね。サンタ、どれだけここに居るの」
罰と言う名の決定事項をスッパリと清和に投げつけた東琉は、明らかに「決まってないだろうけど」と語る視線を義弟に投げる。
「あぁ、そう言えば決めてなかった」
東琉の視線のままを認め、フワリと綿菓子の様に軽く柔らかな笑みは、淩次が放った〝自由人〟を肯定するものだった。
こんな大人で大丈夫なのかと胡散臭げに眺めていると、〝サンタ〟はようやく清和の頭から手を放す。
「改めまして。宝主参大と申します。宝主の三男坊なのでサンタだったり、サンタロウだったり呼ばれてるけど、本名は〝ミヒロ〟。トナカイでもないからね」
悪戯っ子の様な顔をして自己紹介をする参大は、一ノ瀬家の民宿にお世話になりますと、頭を下げた。
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