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民宿の客用玄関に向かうと、今は掃除中なので、母屋の家族用風呂を使うようにと言われた。
清和は別棟として建っている母屋へと参大を案内すると、まず風呂へ向かう。
「先に入って。お客さん風邪ひかせるわけにいかないし」
引き出しから、バスタオルとフェイスタオルを出して手渡すと、参大はニッコリと笑う。
「一緒に入ろうよ」
「……は」
唐突の提案に、清和の心臓は跳ね上がり、反応が遅れる。
「君も濡れたままじゃ風邪ひいちゃうよ」
「いや。俺は後で良い」
「何で。気にする事ないよ。男同士なんだし」
太い杭を心臓まで突き刺されてしまう。
言葉の出ない清和の顔を、笑顔を崩さないまま覗き込んだ参大は、「ね」と悪気も無く念を押した。
このまま意固地になっても逆に変に思われる。清和は自分の中で深く息を吐くと、心を決めて、仕方なさそうに頷いた。
「わぁ、広いお風呂だねぇ」
昔から大家族だった一ノ瀬家の風呂は、客用でもないのに大きい。大人の男が四人一緒に入っても余裕がある。一斉に入って時間短縮を図る為に、必要に応じて大きく造られた風呂だが、清和はもう随分と長く、この風呂を誰かと一緒に使った事は無かった。
「清和君は先に湯船に浸かる派? 先に体を洗う派?」
自身の体にシャワーで湯を掛けながら、参大はニコニコと聞いてくる。
自分の嗜好を認識したのは、小学校に入る前後。それから一年ずつ年をとるごとに、性に対しても認識してからは、弟の清真とでさえ一緒に入っていなかった清和は、害の無い笑顔を向けてくる参大に、答える余裕なんて持ち合わせてはいない。
口では答えず、二つ並ぶシャワーの片方の下で素早く体と髪を洗うと、さっさと湯船に浸かってしまった。
清和が湯船に入った時、参大は髪の毛を洗い終え、まだ体を洗っている最中。
「あ、清和君、ボディブラシとかある?」
「そんな洒落たもんねぇよ」
ぶっきらぼうに言いながら、仕方ないと振り返り、参大に手を差し出した。
「ん?」
「タオル貸せ。背中ぐらい流してやるから」
清和の申し出に、一瞬、驚いたように瞳を開いた参大は、それでもニッコリと微笑み、「じゃあ、お願い」とタオルを手渡してくる。
清和は内心の緊張を押さえながら、湯船に浸かったまま腕だけを伸ばし、参大に背中をこちらに向けて寄って来るように言う。
「そこからじゃ、せっかくのお湯に、石鹸の泡が入っちゃうでしょ」
などと清和の方が湯から出るように言われた。
「そんなヘマするか。良いから、背中をこっちに向けろ」
参大の言葉に清和は取り合わず、そのまま彼の背中を流し始めた。
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