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「んっ・・、ふぅ・・」
マサは声が出ないようにゆっくりと息を吐きながら、鼻で息を吸い、なんとか呼吸をしていた。背中にはカズ。
カズはゆっくりとマサから離れると、風呂場の時計を見て言った。
「そろそろ風呂から上がらないと長過ぎるな・・。後で部屋でお前のだけいい?」
「え・・、大丈夫だけどもう何も出ないよ・・」
「それでいいから。その時俺のもやって」
カズはシャワーでマサの身体を洗い流している間、マサは時折口の中に唾を溜めてそれを吐き出すことを繰り返した。その内の数回は排水溝に流れることなく、違う場所に流れ入った。
2階には部屋が2つあり、それぞれ姉と兄弟2人で別れている。壁を挟む形ではなく、短い廊下を挟んでの部屋ということもあり、互いのプライバシーは保てるようになっていた。
2人の部屋を開けると正面には薄茶色の収納家具がドア側を向いて置いてある。上がクローゼット、下が箪笥の一体型の物。右手は淡い白の壁、左手は水色のカーテン。壁と収納の間にカーテンを付けており、ドアを開けても中が見えないようになっていた。母親が洗濯物を持って来た時などに息子達の空間に入らないような気遣いからの作りだった。
カーテンを開ければ目の前に2人使える大きさの勉強用の机が1つ置いてあり、右手には布団が2つ敷いてある。収納の後ろ辺りにはテレビが置いてあり、ゲーム等の収納もテレビ台を活用していた。
「明日の部活は?」
風呂を上がり、2人はリビングに寄る。姉と母親がソファーに座っていたため、カーペットの上に座り込んだ。
「ん、明日は昼から。えっと、1時から。先生が午前中は寒いから嫌だって言ってたから」
「先生も面白いこと言うね。まだ山口先生が顧問してるの?」
「姉ちゃん、山口先生は中学校だろ?俺はもう高校生だぜ?」
カズはテーブルのお菓子をつまみながら言った。マサは何も言わずテレビに目を向けたままお菓子をつまんでいた。
「山口先生は中学か。もうわからなくなるね。
でも昼からならいいわね。私なんか5時に家出ないといけないのよ」
「起こすのはあたしだけどね」
「保険よ保険っ。何もなかったら私も自分で起きるから」
「マサは明日も暇なんだろ?いいよな、小学生は」
「暇ってわけじゃないんだけど・・」
「じゃあ何するんだよ?どうせ宿題とか言うんだろ?」
「カズっ、小学生は小学生で忙しいのよっ。あんたも当時はブツブツ文句言いながら「俺も暇じゃないんだから」って言ってたでしょ?
年相応にみんな忙しいの。その忙しさを乗り越えて大人になるんだからね」
部屋に行くとカズはエアコンを入れた。
「やっぱ寒いね」
妙に嬉しそうな笑顔でカズは言った。だが、マサの表情は固い。
「・・うん。
ねぇ、僕ゲームしたいんだけど・・」
「あー・・。
じゃあゲームしてていいから俺はお前のいい?」
今度はカズの表情が固くなった。無理やり作った笑顔という感じだった。
マサがゲームの準備をしている間、互いに無言だった。微かに震えを感じる手。湯船で温もることなど殆どなかったからか、その身体は冷えたままだった。髪は完全には乾いていない。若干濡れているからか少し風を感じる。嫌な緊張もあった。飲み込みたくない自分の唾液も飲み込む。視線を感じる。嫌悪という言葉を意識はしていないが、それと同様の感情を抱いているのは間違いないようであった。
「準備できた?
俺のことは気にしなくていいから」
カズはまた笑顔で言って来た。身体の反応は心の反動のようであった。
翌朝、トイレで用を足すマサ。パンツを下ろすと乾いた唾液のあの独特の臭いが鼻を突いた。貯水タンク用の水道でその臭いの元を洗い流す。
歯を磨く時、無意識に舌が思い出したように動き出す。喉奥は空洞を作ることが癖になっていた。
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