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 ユータは聞こえていないのか返事をしない。 「あっ・・、僕はいいけど、浴びなくて。えっ、友達ん()来てシャワー浴びるのって普通なの?」  マサはユータの顔を見て言った。 「シャワー?えっ、いや普通かは知らないけど。俺も別にシャワーはいいし」  ユータも軽く鼻で笑いながら言った。タカユキは何も変なことを言っていないような表情をしていたが、2人の反応を見て自分の質問が2人の常識とは違っていることを認識したような笑みを見せた。 「汗かいてるから浴びるかなって思ってさ。  あはは。じゃあ、俺だけシャワー浴びてくるよ。適当にしてて」  タカユキは部屋を出ていく。慣れない空間に心身は落ち着かない。汗に濡れたユータ肌に視力は普段以上に上がる。同性に(さか)りを迎えるマサは、それを抑えるために生唾を飲み込む。 「・・タカユキって天然?」  首筋を濡らす汗は(しずく)となって垂れる。濡れた髪は(まとま)り、においを想像させる。少し汗かきのようだが、その視覚から得られる妄想が五感すべてに飢餓(きが)を錯覚させ、全ての体液を(ほっ)するリビドーを生むようであった。 「あー・・、あれは天然というよりはバカなんじゃない?  俺も読めないことあるから」 「ふーん・・」  時は小さな音を大きく感じさせるような空間のまま過ぎていこうとしていた。 「とりあえずテレビ点けとこうか」  台の上に置かれたリモコンで電源を入れるユータ。互いに知り合ってそれほど時は経たない。学校ではタカユキを挟んでそれなりに話すものの、2人で話すことは多くはなかった。  すると、階段を急ぎ上ってくる音が聞こえてきた。障子戸が開き、タカユキがにやけた顔をして入ってきた。 「俺の悪口言ってたでしょぉ?」 「いやいや、誰もタカユキの悪口どころか興味すらないし」 「ねぇ、マサ、今の聞いた?ユータがどんなに幼稚園からの付き合いだとしても今のはないよねぇ」 「冗談だし。早くシャワー浴びてきなよっ」 「ん・・、俺、何しに来たんだっけ?  あっ、着替え着替えっ。  マサ、ほんとにシャワー大丈夫?着替えなら貸すよ?」  タカユキは箪笥(たんす)から着替え一式を取り出しながら再度マサにだけ尋ねた。マサが優しく断ると、少し残念そうな顔で部屋を出ていった。 「タカユキ、面白いね」 「小学校の時からあの性格だからか、女子からも人気あったからね」 「それにカッコいいもんね」  外見に関しては本音ではなかった。しかし、事実、人気はあるようだった。男友達は彼の容姿を()めるが、それをマサは理解できなかった。目なのか、それとも認識する脳なのか。それらが他の人達と違うのだろうかと悩み考えつつも、変えられない自身の構造に特殊な優越性を覚えている自分もいた。 「ねぇ、マサ。話は変わるけどナツキとは・・、あれ、したの?」 「キス?」  言葉を(にご)すユータを見て、自身の優位性が高まるのを感じた。 「うん。・・したのかなぁって思っただけなんだけど」 「してないよ。まだ早いかなぁって思って・・」 「そっかぁ・・。  いいよね、なんかお似合いだし」 「お似合いかなぁ?・・まあ、ありがと。  うまく続けばいいんだけどなぁ」  うぶなユータへのシミュレーションが何度も繰り返された。会話への対応も年相応の思考を想定して行われていた。それは興味と恥じらいの複雑精巧(せいこう)な合成により決定される。 「・・ねぇ、僕も話変えるけど、ユータも1人でするの?」 「えっ?何を?」  マサがユータの身体に触れると、ユータは手で制しながら腰を下げ、笑いながら言った。 「あはっ、やめてよ。  1人でって、そういうこと?  したことないよ。  えっ、・・マサは?」 「ひ・み・つ。  ねぇ、生えてる?」 「いや、まだ・・。  マサは?」 「見る?」  この不思議な流れに対してなのか、ユータは動揺の笑みを見せながら、だが少なからず興味ある表情で言葉を返した。 「うん、見せて、見せて」 「ユータが見せるならいいよ」  若気の至りではないが、マサも思春期の興味を装いながらユータを誘う。その奥にある感情は思春期のそれとは明らかに異なることは自認していた。だが、歩んできた道こそ違えど、その根底にあるものは同じなのかもしれないと言い聞かせる自分もいた。
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