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兄/量一/S.S…7
あのドアは鍵が掛ってる。
その角を曲がるとトイレで行き止まりだ。
あれ?
この通路はさっき通ったよな?
建築資材の石膏ボードをそのまま貼っただけの壁。白い蛍光色のリノリウムで塗られた無機質な床。これといって代わり映えがしない裏方の通路はまるで迷路だ。
フルフェイスで極端に遮られた視界の中、荒い呼吸音が耳に響いていた。 吐いた息が循環して酸素が薄い。サウナのように頭部が熱い。
蒸れた内部はおまけに臭い!
「参ったな」
息が上がり独り言ちて壁に背を預けた。
こんな事してる場合じゃないのに……
指針を立てる。
取り敢えず売り場に出よう。それからフードコートに向かおう。そうだ、さっきの映像から思うに紫苑はそこにいるに違いない。
急げ、今、まさにこのいま、紫苑はあの大男に腕でも掴まれているのかもしれない。
そう思うと瞼に映像が浮かんだ。と、同時に体に炎の意志が着火した。
5分だ!
5分以内に向かうんだ!!
何を休んでいるんだ、俺は! 兄貴だろう、お前は!! 紫苑を守れるのはお前しかいないだろう!!!
気合いを入れて身を起こそうとする、と……
グラリ。
突然、背中が壁に吸い込まれてそのままの姿勢で後方に倒れ、背中を強打した。
「△#○∃☆ゞ⊆〜〜〜〜〜!!!」
痛ってー
何が、どうなった?
正面にいま俺を吐き出した内開きのドアが揺れている。
えっ、なんだココ。売り場か?
ゆっくりと立ち上がった。
私服を着た客と思しき人の群れが突然の俺の登場劇にびっくりして、モーゼが海を破るが如く人垣が割れていく。
え! なんだ、この状況……
恥ずかしくなった俺が頭を低くしてその場を去ろうとした時、
「お兄ちゃん?」
「紫苑?」
紫苑の声だ!!
気づいた俺が勢いよく頭を上げと、フルフェイスは頭から滑り落ちて、カツン、と床に転げ落ちた。
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