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妹/紫苑/あかつき草子…9
「はい、カットー!」
かかった声にはっとする。
そうだ。撮影してたんだった。
あ!
あちらの席にいるのは、蒼汰くんと、奈菜ちゃん?
いつの間に来てたんだろう。
うわ!
二人がいる、あの一角だけキラキラしてる。
オーラで、光が乱反射してるのかもしれない。
すると、二人してこちらを見ると、にこっと笑う。
私は思わず、自分の後ろを振り返る。誰もそれらしい人はいない。また前を向く。
今度は、二人はくすくすと笑っている。
奈菜さんは、テーブルの下で横に流していた足をまっすぐにそろえると、すっくと立ちあがる。
はうん。
なんてステキ。
流れるような動作に、見とれてしまう。
とろんと見つめていると、その姿がどんどん大きくなる。そして、私の前で立ち止まる。
え? 私に用?
「ここんとこ、ついてるわよ」
奈菜さんは、人差し指で自分のほほをつんつんとつつく。
「え?」
奈菜さんはテーブルにあった紙ナプキンを手に取ると、私に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
私は受け取ると、慌てて自分の顔をぬぐう。
すると、奈菜さんは私の方に顔を近づけると、耳元でささやく。
「あなた、やるわね。才能あるわ」
ローズの甘い香りに包まれる。
こんなに近くでも、奈菜さんの顔って小さーい。
え?
でも、何か、重要なことを言ったような。
奈菜さんは、ミステリアスな目元を一層すっと細める。
「それじゃ、お疲れ様」
私は、はっとして、慌てて立ち上がる。
「あ、あの、ドラマ見てます! がんばってください!」
奈菜さんは、不思議そうに首を傾げる。
「あら、あなただって出るでしょ?」
え?
ああ、この撮影のことね。
「きっと、私はほんのちょっとですから」
「ふうん。そうかな?」
奈菜さんは意味深にふふっと笑う。
「また、お会いするかもね」
え?
奈菜さんは煙に巻くように、手を振って衝立の奥に姿を消した。
どういうこと?
「おいしそうだったね」
顔を上げると、そこに立っているのは蒼汰くんだった。
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