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兄/量一/S.S…10
紫苑が福士くんと何やら話している事にヤキモキしていた。気が気じゃなかった。なぜか二人を見ていない振りをしていて、それなのに視界の隅の二人から目が離せない。
会話は聞こえているのに、頭に入れないように意識が拒んでいる。
ーー俺は何をしているんだ?
周囲のギャラリーの会話が聞こえた。
「おい、あのチーズドッグ食べてた子。可愛くね?」
「握手してもらおうか?」
「芸能人?」
「だって、福士くんと話してるし」
このまま兄だと名乗りを上げて二人に混ざればいいのに。って思いながら、どうしても出来ない。
ーー俺は、焦っている?
ーー何故?
福士くんが離れるのを見計らって、紫苑に近付き手を引っ張った。
「紫苑、買い物が遅くなるから、もう行くぞ」
「ちょっ、お兄ちゃん? みんなに挨拶しないと……」
フルフェイスを脇に抱えながら「ありがとうございましたー」と、誰かれかまわずに声をかけて、物産店で売っているべこのように頭を振って人垣を割った。
ーー俺は紫苑を取られないようにしている?
ーー何から?
人混みの喧騒から、現…渡し…ギャラが……と、一際甲高い声が聞こえたような気もしたが、無視して下りのエスカレーターに乗った。
「お兄ちゃん、そんなに時間かかっちゃったかなー?」
「ここにきてから1時間半はたってるぞ」
「えー! そんなに長居してたんだ。でも、チーズドック美味しかったー」
菜奈さんや福士くんとも話せたしー。と、満足そうにはにかむ紫苑をエスカレーターの2段下から見上げる俺は安堵していた。
ーーそうか。
急に紫苑が遠い存在になってしまう気がして、恐れたんだ。
ーー兄として失格だな。
自分のエゴで紫苑の可能性を潰していた行為に少し恥じた。
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