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兄/量一/S.S…3
「入る入る! 大丈夫。問題ないぞ、紫苑。このBMWのバイクはテントも入るんだからな!」
セルでエンジンをかける。
「はい。ちゃんとつかまって。落ちたら大怪我どころじゃ済まないんだぞ!……よし」
ドッド、ドッド、ドッド……
再度つかまらせた俺は違和感に気づいた。と同時にドキリ、とした。
あれ?
紫苑、以前ケツに乗せた時より大きくなってる?……気のせい……
背中に受けたしっくりとくる温かさとやわらかさ。
いつまでも幼くて可愛らしく、危なっかしい。だからいつも心配をしてしまう。そんな俺の意識とは異なった女性らしい質感を感じたからだ。
ーーええい!
何を考えているんだ俺は!
邪な思いを振り払うようにしてバイクをスタートした。
よかった。
エンジンをかけてから気づいて。バイクの振動で俺の変に浮き足立った心臓の鼓動には気づかれてはいないだろうから。
「紫苑、風が気持ちいいなー」
「うん。気持ちいいー」
フォン、フォン、と風切り音を鳴らし車の間を縫って走る。
時折、バックミラーに映る俺の頬が暖色に染まっていたのは、暮れなずむオレンジに照らされただけではなかったのかもしれない。
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