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兄/量一/S.S…4
スーパーの駐車場はとても混んでいた。
コの字型のスロープをどんどん上がる。途中の階は全て満車の赤いランプが点灯していて、気がつけばの五階建ての屋上まで回されてしまった。
なんだ? 今日は何かイベントでもあるのか?
「すごく混んでるな」
バイクのスタンドを下げながら紫苑にいうと、先に降りた紫苑がメットを脱いで、
「お兄ちゃん! 張り紙見た?
今日フードコートで月9の『会いたい時に、君はいない』の公開撮影してるんだって!
ひゃーん! 福士蒼汰君に会えるー!」
え、まじで!
じゃぁ、小松菜奈ちゃんにも会えるのか?
紫苑は小さくジャンプしながらメットをブンブン上下させて白い歯をこぼしている。
気持ちは俺も同じだった。 だって毎週、楽しみに紫苑と一緒に見ているドラマだったからだ。 そそくさとメットを脱ごうとした。
あれ?
あれ?
脱げない……
力を入れても、ひねっても、後頭部と顎にピッタリと張り付いたフルフェイスがどうしても脱げない。
「どうしたの? 大丈夫おにいちゃん? 脱げないの?」
早く、早く、と急かしていた紫苑も俺の変化に気付いて心配そうな顔に変わっていく。
そこから10分フルフェイスと格闘したけど、どうしても脱げなかった。
「ダメだ、紫苑、どうしても脱げない」
「えーーー」
息できる? 病院行く?
あ、消防に電話する!?
紫苑は心配して色々と打開策を提案してくれたけど、偶然居合わせられたイベントを、紫苑があんなに喜んだ顔を台無しにしたくなかった俺は、痛くもないし呼吸もできる安心感と漠然とした「まぁ、いつか取れるでしょ?」という楽観も手伝って腹を決めた。
「もういい。このままいくぞ紫苑」
紫苑のかぶっていたメットをしまって、バイクに鍵をかけながら言った。
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