妄想を抱いていた少女時代

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妄想を抱いていた少女時代

 “運命の王子様”が現れるとずっと思っていた少女時代。 あの頃、いろんな少女漫画を読み尽くしていた。 当時、家には少女漫画が本棚に片付かず、床に積み上がっていた事を覚えている。 母親に「少しは片付けないと床が抜けて家が壊れるわ!」と毎日の様に嫌味を言われ続けた日々。 学校帰りに漫画を買っては、部屋で読み明かした日々。 それも、今では過去の話。 現実世界には、王子様なんて存在しなかった、現れなかった。  あっという間に今年で28歳。 仕事もプライベートも充実して来るはずなのに、どちらも充実なんかしていない。 今まで彼氏がいた事がない。 世の中の女の子が、恋というものを体験している間、私は漫画の中の王子様に夢中だった。  今思えば、その頃からかもしれない。 現実世界には、王子様なんていない事に気付いてしまったのは。  仕事の同僚とのランチ中の話は、彼氏の話。 すみれちゃんは、彼氏と喧嘩なう、らしい。  「私のプリンを勝手に食べたのよ?もう別れてやる!」  喧嘩をしているというのに、すみれちゃんは少し顔がニヤケている。 きっと喧嘩も楽しいのだろう。  そして、皐月ちゃんはもうすぐ彼と結婚するらしい。 二人とも、充実した毎日を送っている。 でも、羨ましいとは思わない。 だって、いつもランチの時間は彼氏の愚痴ばかりだからだ。 きっと、彼氏が出来てお互い好き同士でも、きっとどこかしら嫌いな部分が浮き上がってくるのだろう。 そして、愚痴に繋がる。 その点、漫画の中の王子様は、キラキラしていて、一点の曇りもない。 彼女だけを愛し、一生を捧げる。お互いを求め合って、愛し合って。 シェイクスピアのロミオとジュリエットは、悲しい話だが私は好きだ。  両家の争いに屈しない愛、最後は死んでしまうけど切なくて愛おしい。 でも、王子様と言えば、シンデレラだろうか。 ガラスの靴だけを頼りに、王子様が探し求めて結ばれた。 そういう恋がしたいと常々思っている。  「ねぇ、綾ちゃんは彼氏いないの?」  皐月ちゃんが頬杖をついてこちらを見ている。  「私は、いないかな。」  「勿体無い。可愛いからいると思ってた。」  すみれちゃんが猫なで声で言った。  言えないよ、“運命の王子様を待っているんです”なんて。
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