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運命
星夜さんがお風呂に浸かってもらい、温まってもらっている間に、家にあるもので料理を作る事にした。
幸い、食料があったので何とかなった。
コンビニで買ったものは、明日食べる事にしよう。
星夜さんが風呂から上がったのとほぼ同時に料理ができた。
風呂から上がった星夜さんは、上半身裸で、どこに目線をやっていいのか、あたふたしていたら星夜さんに笑われた。
「ごめんなさい。服来ますね。あ、これ綾さんが作ってくれたんですか?頂いても?」
「どうぞ、お口に合うかわかりませんが。」
一口食べて黙り込んでいるので、口に合わなかったのかと思っていると……。
「美味しい!これ、すごく美味しいですよ。綾さん!」
思っていた何倍も大きな声を出されたので、びっくりしてしまった。
心臓が痛い。
美味しいと言って私の手料理を食べて笑っている彼を見ると何故か心臓が痛い。
小人がトンカチで私の心臓を叩いているような感覚。
恋愛経験はないが、恋愛勉強だけは少女漫画で培ってきた。
これは、恋をしている。
恋をしていると、小人がトンカチで心臓を叩くような痛さがすると漫画に書いてあった。
こんな気持ち初めて。
漫画の王子様にしか心を奪われて来なかった私が、生身の男性に今、心を奪われている。
「好きになってしまいました。」
「え。」
「あ、今のは間違いです。すみません、忘れてください!」
勝手に言葉が出てしまった。
慌てて立ち上がり先ほどの言葉を忘れてもらおうと、「お茶淹れますね。」なんて言って冷蔵庫を意味もなく開ける。
余程あたふたしていたのか、また星夜さんに笑われた。
「本当に可笑しな人ですね。可愛い。」
可愛い?この私が?星夜さん、寒空に居たせいでおかしくなっているのか。
チッキンにいる私に近づいてきた。
真っ直ぐな目で見つめるその目に、またもや心を奪われて、気がついたら星夜さんの顔が目の前にあった。
「綾さんは、本当に面白い方ですね。見ず知らずの男を家に連れ込み。普通襲われるんじゃないかって思いません?」
「星夜さんは、そんな事をする人には見えなかったからです。」
「僕だって、男ですからね。他の男性にもこんな事しています?」
首を横に振った。
「よかった。僕も綾さんの事、好きになってしまいました。優しい所は昔と変わりないですね。」
ん?昔?
「あれ、覚えてませんか。僕の事。中学生の頃同じクラスだったんですよ。あの頃は、地味で眼鏡をかけていて、目立つ方ではなかったので、印象に残っていないのは無理もありません。」
ごめんなさい、覚えてません。と返事をすると、大丈夫です、そりゃそうですよ、と笑った。
星夜さんの笑った顔をもっと見たいと頬に触れた。
「実を言うと、中学生の頃から綾さんの事が好きだったんです。でも、僕は地味で声をかける勇気が持てなかった。あの頃、綾さんずっと少女漫画を読んでいましたよね?友達と良く話しているの聞こえていたんです。『王子様が現れないかな』と毎日言っていましたよね。だから、僕も王子様になったら綾さんに声を掛けられるかもしれないと。すみません、中学生の片想いだと聞いてください。そして、今日偶然、綾さんと再開した。あの頃と変わらない優しい綾さんが声を掛けてくれた。やっぱまた片想いしていたみたいです。偶然ではなく、必然だったかもしれないですね。」
「そんなにずっと片想いをしてくれていたの?」
はい、と優しい目になった星夜さん。
「僕が綾さんの、運命の王子様になってもいいですか?」
こんな事を言ってくれる男性が現れるなんて。
「はい、私をシンデレラにしてくださいね。」
あの時、あの光を見つけていなければ、こんな運命にたどり着けなかったのかもしれない。
私の事をずっと想い続けてくれた星夜さんとの再会。
これは紛れもなく運命の王子様と言ってもいいだろう。
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