次年度に持ち越し

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 よし、今日から忘れたことにしようと。忘却の彼方へ追いやったつもりの出来事を、飽きもせずに思い出す。  脳内リピート余裕の残念な結末ではあるものの、しかし、人によってはどうでも良いことなのかもしれない。  気にする程のことではない。誰にだってあるよ小さなボタンの掛け違いは。タイミングの問題かな。それは難しいよね。宥めてくれる人が、せめて僕の隣にもいれば良いのにと願うものの、そういう存在を失ったばかりなのだ。  そうそう変わりの都合の良い誰かなんて、見つかる訳がない、見つけれる訳がない。  一年と少しの片思いだった。  その期間をながいと思うかみじかいと思うか、それはその人の価値観次第だろうが、しかし、僕にとって、あれは時間を掛けた恋だったのだ。  三十歳を過ぎて、周囲の人間は、次々、苦戦しながら相手を散策、捜索して籍を入れていく。  今年のご祝儀代の総額はいくらか。  別に交友関係が広い訳じゃない。  どちらかというと、狭い方だと思う。かと言って、狭くて深い付き合いではない。  おそらく、それなりに広くて、ほんの少しだけ深い。そういうあれだ。  だから、数合わせで声を掛けられるのだろう。  仕事仲間だけでは、結婚式は寂しいらしい。  昔からの友人、地元の友人、高校の、大学の、そういう肩書きの誰かを必要とする。  そういう友人がいる新郎、新婦は人間としても付加価値が上がるようだ。  僕は学んだ。  いつか、僕もなんて、淡い期待は抱いていなかった。  それでも、従兄弟が婿に行き、姉が嫁に行き、僕の家から人が減る。  ならば、どうすれば。人が増えるのか。世界は広がるのだろうか。  一筋の光が欲しかった。  老いてゆく両親に、何かを贈りたいと思った。  テレビに映る誰かの子どもを、かわいいねえと、その言葉を何度吐かせたのだろう。  なんど、きいたのだろうか。
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