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「ん…んぅ………」 鳥の囀りと窓から差し込む朝日。 いつもと同じくらいの時刻に少年が目を覚ますと、目の前にはやはり彼の顔がすぐ近くにあった。 陶器のように色白で艶やかな肌にスッと通った鼻筋。柔らかな朝日を受けて、長い睫毛がその頬に影を落としていた。明るい髪は猫の時もニンゲンの時も同じように柔らかく、少年は寝起きでぼうっとしながらも無意識にそのふわふわへ手を伸ばす。 それから顔にかかる髪を指でそっと横へどかしてやると、やがて宝石のような赤を隠していた瞼が薄らと開かれた。 「ふふっ…おはよ」 少年の手に自身の手を重ねうっそりと微笑むと、彼は少年の手の平に頬擦りをし、そのまま手首へそっとキスを落とした。 「…っ!ちょ、」 それに漸く覚醒した少年がハッと身を起こそうとするも中々身動きが取れない。 それもそのはず。この悪魔は少年の腰に腕を回し、抱き締める形で眠っていたのだ。 この悪魔、夜寝る時は猫の姿でぴょんとベッド脇に飛び乗ってくる癖に、朝目覚めると何故かヒトの姿になって少年を抱き締めている。 この悪戯な悪魔の腕枕で目覚めることなど少年にとっては最早日常茶飯事だった。 「おはようそして手をはなせ。てか、お前用のベッドちゃんと用意しただろうが」 「えぇー。だってアレ猫用じゃん?俺には狭すぎるよ」 「この部屋にもう一個人サイズのベッドが置けるとでも?お前が猫の姿で寝ればいいだろうが!」 「やだ!こっちの姿の方がくっつけるじゃんー」 「ちょぉ!だから服の中に手を突っ込むな、やめ、やぁっ…んっ」 「かわいー…きもちーの?」 「ちがっ、だからぁ…や、やめろって…言ってんだろが!!」 「いてっ」 寝間着を肌蹴させ好きなように身体をまさぐり、肩、首筋、そして今度は唇にキスしてこようとする変態悪魔を少年がバシッと一喝してから、彼らの一日は始まる。 「マジで油断ならねぇあの変態悪魔…やっぱ追い出そうかな…」 「みゃあ」 「みゃあじゃねーよ!どうせ猫の姿でいるんなら一日中そうしてろ馬鹿!」 朝食の準備をしながら足元の猫を睨み付けると突然、猫の姿はさらさらと消え代わりに彼が現れた。 「それはサワくんと話せないからちょっとなぁ」 「わ、いきなり人型になんのも心臓に悪いな…?!」 あまりにも自然に少年の隣に立ち果物の皮向きをてきぱきとこなしながら、悪魔はふと隣の少年に微笑みかけた。 「家事も薬草探しもこっちの方が役に立てるし、それに」 ムッと視線を返してくる漆黒の瞳に見惚れながら濡れたままの手で顎をくいと持ち上げると、悪魔は少し屈んで少年の唇へ口付けを落とした。 「んっ」 「キスもこっちのがいいもんね?」 「こんの…変態悪魔野郎っ!!」 口では色々言いながらも自分の前では余りにも無防備な少年が可愛くて堪らないのだが、これでも少年は警戒しているつもりらしい。怒っているからなのかそれとも照れているからなのか、顔を真っ赤にしてぽこぽこと肩を殴ってくる姿は小動物を彷彿とさせた。 眠るという行為は出来るが基本的に悪魔に睡眠は必要無いので、本当は少年が眠っている時にでも好きなようにできてしまうのだが…。こんな反応が面白くてやはり起きている時に触れるのも止められない。 それに勝手なことをして少年に嫌われるのだけは御免だ。この悪魔にとってそれだけは、耐えられないことだった。 そもそも本気で嫌がられていると分かれば唇にだってキスはしない。魅了の類いの魔法など使っていないが…それでもこれだけのことを赦してしまうなんてサワは何処まで絆されやすいのだろうと悪魔ながら心配になるフジクラであった。
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