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階段を上ると、ぼろっぼろの泣き顔があった。
きっと私も同じ顔をしているだろう。
「志穂」
「うん」
「千賀」
「うん」
二人の名前を呼ぶ。「佳子…」返事がない。彼女はここにはいない。私たちはそれを、もう半年も前から知っている。
私は腕に抱えた彼女の写真を見つめた。あの光の下にあった手の先に続いているはずの笑顔。
もう一度、一緒に旅をしたかった。だから彼女の写真を連れて、同じ景色を見ようと言ったのだ。
「ずっと一緒にいたんだね」
志穂と千賀が私ごと佳子を抱き締めた。
こんなに明るい場所では、佳子を見ることはできない。こんな明々白々な場所では、彼女がいたことを信じることができない。
あの光に切り取られた白い手。
あなたの存在を信じたあの場所に、あのとき、確かに佳子はいたのだ。
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