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「大学、あっという間だったねぇ」
「想像してたよりずっとやること多かったなあ… 兄貴見てると全然そんな感じしなかったのに」
「志穂のお兄ちゃんは頭良かったじゃない」
「佳子ほどじゃないわ。要領が良かっただけね」
「要領良いって、社会に出たら一番必要だよねぇ」
「唐突ね」
ぐだぐだと暗闇の中で思い出話に花が咲く。こんな顔も見えない空間で。いや、顔が見えないからこそ、この光の手を見つめながらだから、こそ。こうして話せるのかもしれない。
志穂の指先が石をコツコツと叩く。千賀が指先で意味もなく模様をなぞる。佳子の手が静かに石に置かれた。
私は軽く指先を握り、石の上に置いて。
何一つ見逃さないとばかりに、これから先、ずっとこの光景を零さず覚えていられるように、じっとその四つの光に浮かぶ手を見つめていた。
「あ、ねえ。次の人が来るみたい。もう行こう」
ふと、佳子の指先が起きて、暗闇に消えようとする。「ま、待って!」
私は思ったより大きな声を出してしまっていた。一瞬、びっくりしたように三人の指先が固まる。慌てて、私はその先を続けた。できるだけ軽いノリで。
「あの、えと、円陣、円陣組もうよ!」
「ちょ、どうやってよ」
志穂が吹き出したように突っ込んだ。こんな暗いところで?
すると、のんびりと千賀が光源を指すように人差し指を立てた。
「あのー、手を重ねてえいえいおーってやるやつじゃない?」
「ああ、あれか」
「そう、それ」
…… というわけではなかったけど、それでいい、なんでもいい。ただもう少しだけ。
私たちは差し出していた手を重ねた。
私、佳子、千賀、志穂。
「これからもずっと友だちだーっ」
えいえいおーじゃなかった。
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