追憶

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追憶

 北海道の大学に進学した私が木暮さんと出会ったのは、大学1年生の秋、バイト先の小さなカフェであった。  私は、札幌にある大学の文学部に入って、欧米文学を専攻した。札幌に引っ越してきた私は、慣れない土地での初めての一人暮らしにもようやく慣れて、足りない仕送りを工面するために、最寄り駅の改札を出てすぐのところにある小さなカフェで店員として働き始めた。客足もそんなに多くはなく、寂れた雰囲気のお店であったが、仕事が楽そうだったので、私はそこで働くことに決めたのだった。  木暮さんは、そのカフェの常連客であった。いつも灰色のコートに身をまとい、決まって夕方5時頃に来店した。決まったように窓際の席に座り、決まったようにエスプレッソを注文して、それからは決まったようにノートパソコンを開いて、ひたすら何かを書いている様子だった。そして、1時間ほどするとパソコンを閉じて、カフェをあとにするのだった。    
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