追憶

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 12月に入ったある日のことだった。いつものように窓際の席に座る彼の向かい側の席に座り、キーツやらイェイツやらの話をしながら、私は今まで聞きそびれていたことを、彼にふと尋ねた。 「そういえば、木暮さんはどんな詩を書いているんですか?」  にこやかに説明をしていた木暮さんは、私のその言葉を聞いて話すのを止めた。顔に、一瞬影が射したように見えた。 「ああ、これですか。これはね、くだらないものです、ええ。」  彼は、いつもと同じ穏やかな口調で、でも吐き捨てるように言った。私はその微かな乱暴さに気がつきこそしたが、あまりに気に留めることはしなかった。 「くだらないってことはないですよ。こうして毎日この席に座って頑張って書いていらっしゃるんですから、きっとすごい作品なんでしょう。」  私がそう言うと彼は黙って、窓の外を見た。それに釣られて私も窓を見てみた。すでにうっすらと降り積もった雪が、ぼんやりと月に照らされて、白銀の光をぼぅっと放っていた。そして、その奥には街灯が揺れ、更に奥には真っ黒な寒空が広がっていたのだった。 「いえいえ。どんなに頑張って書いてみてもね、僕はなにもない人間だから、そんな僕から出るものなんてのは、本当になにもないものなんですよ。これは謙遜ではなく、本当のことなんです。」  彼は窓の外を眺めながらぽつりと言った。そして、私が仕事に戻ったあとも、ずっとそうして窓の外に積もる雪を眺めているのだった。
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