第1話 共存

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第1話 共存

穏やかな春の陽気に包まれたある日、俺は幼なじみのリクとさび付いたオープンカーを運転して杉並区内を巡回していた。  「なあリクこの先の環七防御壁の方も巡回してみようぜ」 リクは軽く頷き環七が通っていたとされる高円寺へ向かった。環七防御壁とは2036年に自衛隊が最後の砦として建設してくれた鉄筋コンクリート壁だ。俺たちはこの壁のおかげでイーターからの襲撃を防ぐことが出来た。 俺達は防御壁の前へ車を止めひび割れなどが無いか隈無くチェックした。 防御壁のコンクリートからから伝わる冷たい感触が手を通じて俺の体を刺激した。 「何とか大丈夫そうだな」 「これのおかげで俺達は束の間の平和を過ごしているが外の世界がどうなっているかわからないぜ」 確かにリクのいう通りだ。俺たちは小さい頃に世界の終焉が起こりこの防御壁の中で育った井の中の蛙だ。 一通り巡回した俺たちは特に壁の異常箇所が見つからなかったので仲間が待つ駅前広場のベース基地へと戻った。 元高円寺駅前のロータリーを活用して俺たちは生き残った子供達と一緒に自給自足の生活を送っていた。入り口は有刺鉄線などでバリケードを張り高台から見張り役の少年による合図で重い扉が開かれた。 ここでは皆が助け合って生活を送りコミュニティーを形成していた。 基地の内部では小さい子供が鬼ごっこで遊んでいたりと平和な時が流れていた。 俺が車を降りると 「お帰りなさい」 俺たちの帰りを待ってくれた幼なじみで1歳年下のリナが出迎えてくれた。 赤髪のセミロングヘアーに童顔で小柄な彼女はコミュニティーの母親的存在だった。 「ただいま」 俺はリナの顔を見て緊張がほぐれた。すると おめでとう~ 仲間達が一斉に俺に向けてクラッカーを鳴らして笑顔で俺に握手を送った。すると奥から女の子達が大きなケーキを運んできた。 「リョウ、16歳の誕生日おめでとう」 「ありがとう。俺も今日で16歳か‥‥ 二年後には俺もイーターになっちまうのかな」 複雑な表情で苦しい胸の内を語ると周りの仲間達も言葉を失い不安げな表情を浮かべ空気が重くなった。 「大丈夫よ。もしかしたら2年後には治療薬が出来るかもしれないわ」 リナが俺たちの不安を和らげようと気を遣ってくれた。俺もリナの言葉を聞いて少し安堵した。 「そうだよな、もしかしたら超天才博士が突如現れるかもしれないもんな」 俺も気を紛らわせようとリナの言葉に同調した。するとリクが俊敏に空気を察知して 「それより腹減った~ 早く飯食いたい」 「お前イーター以上に食いしん坊だな」 俺がリクとの冗談交じりのやり取りでその場の空気を和ませた。日もだいぶ傾き風も冷たくなり出したので火をおこして暖をとりながらリナ達が作ってくれたケーキとシチューを頬張ることとなった。 和やかな雰囲気で夕飯を食べていると奥から怒鳴り声が聞こえ、一人の眼鏡をかけた男性が二人の中学生くらいの少年に連れられ俺たちの所へやってきた。 「どうしたんだ? 」 「リョウさん、こいつ明日18歳の誕生日になることが分かったんだ」 その一言で一気に緊張が走り皆が焦りだし泣き出す子供もでた。 「怖いよ。イーターに食べられるなんていやだ」 個人差はあるが18歳になると高熱が起きて数時間以内に意識を失い倒れてしまう。そしてその後、体が紫色に変色をして海洋生物との融合体の様な姿をした怪物になり人間を捕食してしまう 俺は二人に訪ねた 「彼をどうするつもりだ? 」 「掟により処刑する」 このまま放置しておけば数日後にイーターとなりここは壊滅してしまうことは重々承知だったが、いずれは自分の身にも起こる事だし苦楽を共にした仲間を見殺しにすることは心情的に耐えられず俺は二人に中止を求めた。 「まだ、症状が出たわけじゃないし、イーターになると決まったわけじゃないんだぞ。」 俺達は互いに譲らず一触即発の状況になった。リナも不安そうな顔を浮かべていた、するとリクが俺たちの仲裁を買って出た。 「まあまあここは、俺の顔を立てて一先ず落ち着いてくれ」 リクの提案でとりあえず今晩は見張りをつけて隔離することを提案した。後輩達に慕われていたリクが仲裁に入ったことで二人も渋々了承することとなった。 「リクありがとう」 「いいって事よ」 男性は涙を流しながらリクに礼を言うと二人に抱えられながら奥の建物へと連れて行かれた。 俺は感情で動く俺とは違い冷静に判断が出来るリクを一目置いていた。 「ほら浮かない顔しないで楽しく行こうぜ」 リクの言葉に励まされた俺たちは再び楽しいひとときを過ごすこととなった。 「リクありがとう」 リクは俺に親指を立てて笑顔を見せて自室へ向かってしまった しかしこの時俺達はまだこれから起こる事態を想像し言えなかった。
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