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暗闇の中、俺は走っていた。
背後からは得体のしれないうめき声が追ってくる。
それがなんなのかは分からなかったが、追いつかれれば助からないことだけは分かった。
このままではいずれ追いつかれる。
そんな焦りの中、土がむき出しのデコボコした感触に足を取られながら必死に逃げ続けると、やがて前方にかすかな光が見えてくる。
それは文字通りの希望の光に見えた。
あそこまで走れば助かる。
なぜかそう確信した俺は、最後の力を振り絞って走った。
俺が光にたどり着くのが先か、奴らが俺を捉えるのが先か。
だが俺の背後から迫る何者かのうめき声はだんだんはっきりしてくる。
それは俺に対する恨み言の数々。
一瞬振り返ると闇の中をもがくように走る薄気味悪い連中にはそれぞれどこか見覚えがあった。
うるさい、黙れ、悪いのはお前たちじゃないか。
前方に見えるのは天から一点に降り注ぐ光の柱。
その中に誰かが立っているのが見える。
あれが誰かはわからないが、きっと俺を助けてくれるに違いない。
走り続けてやがて光の中の人物がはっきり見えてくる。
そこに立っていたのは、妻だった。
やがて俺は光の中へたどり着く。
転がるように妻の足元へすがりつくと、妻は俺の手を取りふわりと舞い上がり、天へ向かって俺を引っ張り上げてくれた。
「ああ、やっぱりそうだ。お前だけが俺を助けてくれる。信じられるのはお前だけだ」
下を見ると地面を埋め尽くしてうごめく亡者たち。
だがその手はもう俺には届かない。
俺は逃げ切った。またやつらに勝利したんだ!
光の中の妻は、微笑みながら言う。
「そんなわけ、ないじゃない」
そして妻は微笑みながら俺の手を離した。
俺は下で復讐せんと待ち構える亡者たちの群れにまっすぐ落ちていった。
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