光#2

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 光あるところに闇があると、誰かが言った。  だが光がなくとも闇は存在する。  ならば闇こそが世界の本質なのだ。  故に人は闇を恐れつつも、そこに安らぎを見出す。  だが我が安寧も、溢れ出た光の奔流によって突然破られた。  我が眠りを妨げるのは、何者か……。 「ほらお姉ちゃん、朝だよ!起きてー!」  妹の智恵(かわいい)だった。  智恵(かわいい)は私の部屋の窓を覆っていたカーテンを全開にすると、我が安らぎの空間を作り出すお布団を容赦なく剝ぎ取っちゃったやめて寒い眩しい! 「やーだー、まだ眠いー」 「そう、じゃあおやすみ」  私はあっさり部屋から立ち去ろうとする智恵(かわいい)の腰にすがりつく。 「待って!お姉ちゃん、まだ起きてないよ?」 「知らないってば」 「妹ちゃんとしては、お姉ちゃんがちゃんと起きるのを見守る義務があると思うのだけど、どうかな!?」 「何言ってんの……」 「でもそのためには、きちんと段階を踏む必要があると思うの」 「段階?」 「まずいきなりカーテンを開けたり、布団をめくってはいけません。急激な環境の変化はお姉ちゃんにとって大きなストレスになります。場合によっては死んでしまうことも……」  智恵(かわいい)はツカツカと私の部屋の窓まで歩み寄ると、窓を全開にした。  冬の最中の身を切るような冷風が部屋に吹き込む。 「ぎゃー!?やめて!死ぬ!本当に凍死しちゃうから!」 「じゃあさっさと起きて服を着ればいいのに」 「着替える!着替えるから窓を閉めて!」  智恵(かわいい)はやれやれといった顔をしながら窓を閉めてくれた。 「うう……体が冷え切ってしまった……暖めなくちゃ……」  私は布団の中にもぐり込もうとする。  だが智恵(かわいい)は掛け布団を引っ張ると廊下に持って行ってしまった。 「ああ、ひどいよ智恵……。お姉ちゃん、なんか悪いことした……?智恵はもしかしてお姉ちゃんのこと、嫌いなの……?」 「んー?最近はめんどくさいなぁとは思う」  ひどい。 「だいたい智恵はなんとも思わないの?」 「なにが?」 「ほら、眠れない夜ってあるじゃない」 「んー、まあ時々なら」 「そういう時って、眠気が欲しくて欲しくてたまらないの。でも全然こない。ああっ、眠れなーい!」 「それで?」 「でも!今ならその眠気がここに!つまり眠気は貴重な資源なのです!だったらその眠気を使わないなんてもったいないのです!もったいないお化け案件です!」 「……」 「時代はエコなのです!なのに!この貴重な資源を捨ててしまって良いのでしょうか!?いいえ!よくない!良いはずがありません!」 「……」 「だから私は眠りたい!この貴重な資源を上手に活用できるように、私はなりたい。なりたいのです!!」  我ながら感動的な演説だったと思う。  智恵(かわいい)も落涙を禁じ得ないに違いない。 「お姉ちゃん」 「はい」 「もう目は覚めた?」 「……覚めました」 「じゃあ起きたら?」 「……起きます」  先に部屋を出た智恵(かわいい)に続いて、冷え切った手をこすりながら私は部屋を出る。 「光の戦士智恵よ、今回はお前の勝ちだが次はそうはいかぬぞ」 「お姉ちゃん、そういうのいいから」 「はーい」
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