6 ズレ

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「あ、藍染さん。今ね、写真を撮っていたんだけど、よかったらデータ送らせて?」 「データ?」 「そう。藍染さんの写真。いい?」  僕の入り込めない沈黙の距離など無視して入ってきた努さんに乗じて近寄り、真似してトークアプリの自分のアカウントも提示する。藍染さんは除けようともせず当然のように僕のも登録してくれた。 「これさっき撮ってた写真なんだけどね。ちょっとピントがグラスに行っちゃってるけどなかなかいい感じだと思ってさ、これSNSにあげていいかな?」 「いいすよ」  出された写真を一瞥しただけで藍染さんは軽く許可した。  写真を撮られることも人に見られることも気にしていないのだろうか。それなら他人から見える髪の話だって問題ないだろうに。  他人から見えないものは駄目ということ?  髪を伸ばす"せっかく"の理由だけが引っかかった?  彼の出してくれた好きな曲も好きな炭酸も、他人に見られることを想定しているものなのか。 「やった! あ、これね、url出すよ。ボクの作ってるブランドのSNSとか……」  努さんは眼鏡を直すとぽちぽちとデータを送りつけている。連写しているため確認に時間がかかるようだ。 「努さん僕には?」 「ムラサキも欲しいの?」 「うん」  欲しい。 「じゃあ後でね」  新しく登録された藍染さんにただ一言よろしくと送りつけると、ぽんっと変な顔のくまのスタンプが一つ返ってきた。
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