7 夜道

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 ゆっくりと15分ほど歩いて家に着くとムラサキをベッドに座らせ、まず水をやった。彼は落とさないように両手でコップを持つと、それを味わうかのごとく着実に飲んでいる。緩慢な動きで脱がれたジャケットを受け取り、すぐに目につくだろう椅子にかける。  もともと眠たそうな瞼はもうほぼ開いていない。  手からコップをどけてパソコンデスクに置き、そのままベッドに寝かせることにした。途中で吐き気がして起きるかも知れないのでゴミ箱を空けて傍に置いておく。座った際にポケットからはみ出して落ちそうになったスマホも、引き抜きコップのすぐ隣に置いた。  横たわった彼が少し微笑んだ気がした。すぐに寝息が聞こえる。 「ふぅ」  起きたら無理をしてまで飲むなと言ってやろう。酒に強くない彼がこれほど飲んでいた理由はわからないが良いことはない。  他人を部屋に入れるのなんてはじめてのことだった。    自分以外の気配に、少し緊張する。  途中で起きてきたら困るし、他人がいる中で風呂に入るのもはばかられる。  散らかっていた物を少しだけ静かに静かに片付けた。自分の家なのに物音を立てないように動く。  一息ついてスリープモードのパソコンを起こす。ゲームを今からする気分にもなれないが、じゃあ即寝ましょうという気分でもない。  寝床もないなと気づき、ゆっくりそっと毛布を取り出す。挟まって寝れば体も多少は痛くないだろうか。  窓を開けて換気が終わるまでの間音楽でも聞いていよう。なんだったら朝までそのまま起きていてもいい。  ぺたりと裸足で触れるフローリングも窓から入り込んでくる夜風も少し冷たかった。
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