8 きれいなもの

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8 きれいなもの

-8- ムラサキ  ひんやりとした澄んだ空気。ほのかに漂う金木犀の香り。入り込む街灯の明かり。  灰色の頭に光が透けて紫味を帯びている。  チカチカ音がしていた。彼のヘッドホンから漏れている音。パソコンも小さく唸りを上げ美しい風景を写し、電源ボタンの赤い光が壁に映る。  綺麗だ、と思った。  夜の光で紫に見える髪色も、黒く艷やかなヘッドホンも、パーカーに入った黄緑のラインも、閉じられた瞼の皮膚の薄さも、冷たい空気と柔らかな匂いの中の静けさも、音をなぞるかさついた何も発さない唇も、――綺麗だと思った。
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