光なんてなければいいのに

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 背後からの光が(うずくま)る私の背中を照らす。思わず振り返る。――どん。 「痛たたっ……」  しゃがんだまま無理に振り返ったからバランスを崩して尻もちをついてしまった。濡れた岩場で、地面に触れた下着がじんわりと湿気を吸う。 「――大丈夫?」  お尻の痛みに堪えながら視線を上げると、そこにはLEDライトを手元で光らせながら、腰を屈めて私のことを覗き込む少年がいた。  それは一上くんだった。  一上蓮くん。私の好きな同級生。――そして、美奈の恋人。 「……一上くん?」 「――竹井さん?」  スマートフォンのLEDライトを懐中電灯代わりに掲げた一上くんが、心配そうな表情を浮かべていた。小さな光が彼の表情を暗闇のなかでボウッと照らす。  私はその小さな光に見つけられて、頬が緩むのを感じる。  小さくても明かりを得た安堵と、大好きな一上くんとが目の前にいる嬉しさが、一人っきりの私を真っ黒な世界から救い出した。  それと同時に心臓は締め付けられる。  だって、真っ暗な鍾乳洞の中、こんなに近くにいるのに、今の私はあなたに手を伸ばすことさえ出来ないのだから。  でも、暗闇の中で突然現れた小さな光は、私に何かを期待させる。  ドラマチックなワンシーンは、新しい変化を期待させるのだ。
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