光なんてなければいいのに

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「足元気をつけてね。竹井さん」 「う……うん」  一上くんが一歩先を歩き、私はおずおずと付いていく。  暗所恐怖症だから、一上くんが居ても、怖いものは怖い。  「二人っきりで居る嬉しさと、真っ暗な中を歩く怖さのどちらが強いか?」って聞かれたら、「どっちもどっちだ」としか答えようがない。――暗いの怖い。  でも、一上くんと二人でいることのドキドキと、暗闇の怖さのドキドキは、なんだか私の心臓で混ざり合って、よく分からない化学反応を起こしていた。 「でも、一上くん、……スマートフォンを懐中電灯代わりにするなんて、凄いね。――私、思いつかなかったよ〜」 「……え? いや……みんなやっていると思うけど?」 「……え?」 「あ……」    何気なく答えた台詞に、しまったという顔をする一上くん。  私も思わず恥ずかしくなって俯いてしまう。なんだか、自分の馬鹿っぽさをアピールしてしまったみたい。  そうだよね。スマートフォンのLEDライトを懐中電灯にするくらい、みんなしてるよね。なんで、私、思いつかなかったんだろう?  馬鹿だな〜。……馬鹿なんだけど。 「でも、仕方ないよ。竹井さん、暗所恐怖症なんでしょ? さっき会った時も、パニックになっていたみたいだし。僕が偶然、近くに居て良かったよ」  やさしい。 「……パニックだったかな――私?」 「うん、パニックだったんじゃない? そうじゃないと、美奈はともかく、僕の名前を呼ぶなんて考えられないよね? 混乱しちゃっている証拠」 「――そっか、混乱してたんだぁ……」 「してたんじゃない?」 「そう? ……でも、嬉しかったし、助かった。ありがとう……一上くん」 「どういたしまして。竹井さんは僕の数少ない女友達だし、なんてったって、美奈の親友だからね。僕も竹井さんのピンチを救えて良かったよ」  そう言って立ち止まると、振り返り一上くんは、はにかむように微笑んだ。  二人っきりの鍾乳洞の暗闇の中、スマートフォンのLEDライトで、仄かに彼の表情が浮かび上がる。その小さな光は、彼と私だけを照らしている。  二人っきりの世界。小さな光が創り出す、仮初の時間。  胸が、傷んだ。 「行こうか?」 「……うん」  私は足元の濡れた岩を踏みしめて一歩進む。  仮初の時間かもしれない。  鍾乳洞を出たら、また、私は一人になるのだろう。  美奈や一上くんや友達に囲まれて、また、一人になるのだろう。 「……あのね、一上くん」  歩きながら、前を行く彼に声を掛ける。 「何? 竹井さん」 「……美奈とは、上手くいっている?」
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