光なんてなければいいのに

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「……だ、大丈夫……だからっ」  思わず、一上くんの胸を押して、身体を引き離す。本当はずっと抱き合っていたかったけれど。そうもいかないよ。 「あっ、ごっ、ごめん」  今更、状況に気付いたのか、一上くんが私の身体から両手を離す。 「きゃっ!」  突然、支えを失った私の身体は、また、バランスを崩した。 「おっと」  間一髪で伸ばされた一上くんの右手が、私の腕を掴む。  ぐいっと引っ張られて、私はなんとか転倒を免れた。 「……大丈夫?」 「うん……平気。――ありがとう」  右腕を引かれて、彼と向かい合った私の目と鼻の先に、一上くんの顔。  「良かった」と言って「ハァ〜」と吐く彼の安堵の溜息が、私の額に温かく掛かった。  掴まれた右手。引かれた力は、男の人のものだった。一上くんは運動部でもなくて、見た目は筋肉質でもないんだけれど、それでも、やっぱり男の人なんだなぁ、ってちょっと思った。 「やっぱり、暗いし、足元悪いよね」 「う……うん。そうだね」  一上くんの右手は私の腕をまだ掴んでいる。その繋がった部分を、彼はそっと持ち上げた。 「明るいところに出るまでさ、手、繋いで行こうか?」  心配そうな表情で、私のことを覗き込む彼。一瞬の沈黙。 「――あ、もちろん、竹井さんが、嫌じゃなかったらだけど?」 「ううん! 嫌じゃない! 嫌じゃないよ! 繋いでいこう。うん、繋いでいこう!」  突然、私の食いつくような返事。――あ、ちょっと、やっちゃった感。  一上くんは少し驚いたように目を開いて「そ……そう?」と言うので、私は恥ずかしくなりながらも「う……うん」と頷いた。  手を繋ぐなんて、刺激が強すぎて、即答出来なかっただけなのだ。 「じゃあ。――はい」  一度、私の右腕を離し、あらためて一上くんが,左手のひらを開いて差し出す。  それはまるで、物語の中で舞踏会で、王子様がお姫様を踊りへ誘うような、そんな仕草。少なくとも、私にはそう映ったのだ。  朧気(おぼろげ)なスマートフォンの光の中で、彼の手のひらにそっと自分の右手のひらを乗せた。私の右手を握るあなたの左手。その指は、思っていたよりゴツゴツしていて、力強くて、でも、なんだか温かかった。  それは、すぐに消えてしまいそうなLEDの小さな光の中での出来事。 「行こうか?」 「――うん」  そんな小さな明かりに包まれて、私たちは鍾乳洞の中を、出口に向けてまた歩きだす。手を繋ぎながら。
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