光なんてなければいいのに

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 もう暗闇の不安も、一人きりの孤独も無かった。  でも、私の心臓は勢い良く拍動を始めていた。その拍動は心地よくて、私の頬を上気させる。全身が温かい。今だけの熱が、私を包み込む。 「もうすぐゴールだと思うよ」 「そっか。……まだ、鍾乳洞の中の明かりは戻らないみたいだね?」 「だね。スマートフォンのバッテリーが持って良かったよ」 「そうだね。私は、一上くんに見つけてもらえて――良かったよ」  本当は、まだ、鍾乳洞の出口に辿り着いて欲しくなんてない。  右手から伝わるあなたの体温をいつまでも感じていたい。  胸の高鳴りは少しずつ少しずつ加速している。  小さな光の中で、触れた彼の左手から、私の中に何かが入ってきて、化学反応は始まっていた。それは、もう止まらない加速。何かの融合と、何かの崩壊と、何かの放出が、熱を伴って私の中でうねり始めている。もう止まらない。  だから、少しだけ、右手に力を入れて、彼の手を強く握る。でも、彼に気付かれない程度の力で。私は、もう、きっと、止まれないから。でも、それは伝えられなくて―― 「ねえ、一上くん?」 「――何?」 「もし、……もしだよ? 一上くんと、美奈が、喧嘩しちゃったりしてね、……その、別れるようなことがあっても――」 「……あっても?」 「うん。もし、万が一、そういうことがあったとしても、一上くんは私と……友達で居続けてくれるかな?」  立ち止まる。そして、一上くんは振り返って、微笑む。「馬鹿だなぁ」って。  あなたの左手と私の右手は重なったまま、小さな光の中で二人を繋いている。 「竹井さんと僕はもう友達でしょ? 万が一、美奈と別れてもそれは変わらないよ。何を心配しているのか知らないけどさ。そんな心配しなくていいからね?」  一上くんの持つ右手のスマートフォンから放たれるLEDの光が、少し弱まった気がした。そこで、ふと気づく。LEDの光が弱まったんじゃない。周りが少しずつ明るくなってきているのだと。 「でも、竹井さん。その質問、一つだけ前提が間違っているからね」 「……前提?」 「うん。僕と美奈が別れたらってところ――」  光が射し込む。彼の背中には鍾乳洞の出口があった。  そこから広がる外の世界の光が、私たちをの周囲を少しずつ明るくして、スマートフォンの小さな光を、かき消していく。 「僕と美奈は別れないから。こんなこと言うのは恥ずかしいし……、竹井さんが美奈の親友だから言うんだけどさ。僕、美奈のことが本当に好きなんだ。それに、美奈といると落ち着くんだ。高校生の恋愛だって大人は本気にしないかもしれないけどさ。こういう気持ちって、ずっと続くと思うんだ」  そう言うと一上くんは、「恥ずかしいから、美奈や、他の友達には秘密だよ」と悪戯っぽく微笑んだ。 『あっ、蓮だっ! あれ? 結衣も一緒なの?』    鍾乳洞の出口の方で声がする。美奈の声だ。
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