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蜜蝋
「誰もが、私ができないことしか見なかった。できることではなく・・・」
〜イツァーク・パールマン 世界最高のバイオリニスト〜
「蜜蝋がないわ・・・」
暗がりの中で、ルーシー・マクブライトは、右手を棚の奥まで突っ込んで、ため息をついた。ルーシーは手を引っ込めると、しゃがんで探し物が落ちていないか探った。直径4フィートの範囲に蜜蝋の塊がないことがわかると、ゆっくりと立ち上がった。テーブルに腰が当たって、置いてあったタンバリンが「シャラン」と音をたてた。
ルーシーはタンバリンを手に取ると、右手の中指と薬指で軽く叩いた。乾いた牛皮の音とシンバルの軽やかな音が、誰もいない暗い部屋に響いた。ルーシーは中指で牛皮を擦った。指先が革を引っ掻いて「タララッ」と音がしたが、すぐに滑ってしまった。ルーシーは何度か試してみたが、指は革を滑ってしまい、「タラッ」か、せいぜい「タラララッ」くらいしか音が出せなかった。
「蜜蝋がないとロールができないわ・・・」
ルーシーはタンバリンをテーブルの上に戻すと、もう一度棚の隅々まで探った。蜜蝋は見つからなかった。
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