ピンクの光

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白檀の線香の香が僕の身体を包み込む。 こんなにウットリする香だとは、今まで気が付かなかったよ。 それよりも、ビックリしたのは、あれだけ苦しんだ痛みが、ウソのように消えたことだ。 死ぬことは、怖かったけれど、痛みがないのは、ちょっとばかり嬉しい気もするな。 僕は、5時間ほど前に、1年ほどガンで苦しんで、ついさっき死んでしまったのだ。 それで、死んだ後、自宅に僕の身体を運んで帰って来た。 僕は、それを空中に浮かんで眺めているという状況だ。 下の方で、怜子が泣いてる。 「ごめんね、怜子。先に死んじゃって。」 声を掛けても、怜子には、届かないのが、どうにも、もどかしい。 奥さんは、目をはらしながら、葬儀会社との打ち合わせや、親戚への連絡に、バタバタと走り回っている。 その姿を見ていると、どうにも可哀想だ。 僕だって、泣きたいけど、涙が出ない。 それにしても、子供がいないのが、まあ、救いか。 まだ、怜子も30代だし、僕が死んでも、まだ次の人生をスタートできる。 これが、子供がいたなら、子供を育てなきゃいけないし、子供の顔を見るたびに、僕を思いださなきゃいけないだろう。 そんなツライ思いは、させたくない。 「怜子。そんなに悲しまないでよ。僕は、今、怜子のそばにいるよ。」 思いが届かないのが、悲しい。 すると、怜子が、僕の身体の傍に来て座った。 「匠さん、、、、、。」 今まで、忙しく葬式の手配や親戚への連絡を、気丈にもテキパキとこなしていた怜子が、急に、口をへの字に曲げて、僕の名前を1回、2回と、力なく呼んだのだ。 そして、大きな涙が頬を伝った。 細く白い人差し指に、ぬぐった涙が、蛍光灯の光に反射している。 それを僕は、美しいと思って見ている。 僕は、怜子のそばに降りて来て、彼女の肩を、そっと後ろから抱きしめようとしたけれど、怜子の身体は頼りなく、僕の腕が、通り抜けてしまう。 何とか、僕が、今、怜子の傍にいるんだよと、教えてあげたいのだけれど、どうやっても無理だ。 ただ、怜子が、悲しんで泣いているのを見ているしか、仕方がない。 僕は、怜子を愛している。 でも、その怜子をおいて、これからあの世というものに行かなきゃいけないのである。 怜子を、置いて行くことが、苦しい。 これから、怜子一人でやっていけるのだろうか。 そういえば、こんなことになるのなら、医療保険なんて止めて、死亡保険に入っておくべきだったな。 どうせ、治療したって無駄だったんだ。 それなら、いくらかでも、保険金を残してあげた方が良かったに違いない。 そういえば、僕が死んだら、怜子は、生活費を、どうやって工面していくんだろう。 それを考えると、胸が痛むよ。 ちょっとばかり嫉妬はするけれども、すぐにでも、金持ちの男を捕まえてくれ。 怜子が苦しむのは、どうにも嫌だ。 それにさ、いくら嫉妬を感じても、そのころには、僕は、もうこの世にはいない。 別の世界に旅立ってるだろう。 しかし、そんなことも伝えられないんだな。 死ぬと、何も出来ないね。 悲しいね。 しかし、もうそろそろ、この世とお別れして、あの世とやらへ行かなきゃいけないのだろう。 僕は、生前に、あの世に関する本を何冊も読んで研究していたんだ。 生きているころは、パワースポットや、占いや、そんな不思議な世界が好きだった。 それでさ、こうやって、死んでみると、どうやら、三途の川は無いようだ。 そこいらじゅうを見て回ったが、三途の川はない。 よく話では、川の向こうから、もう先に死んだおばあちゃんとかが、「こっちにおいで~。」なんて、呼ぶんだよね。 それでもって、呼ばれて行っちゃうっと、そのままあの世行きだ。 でも、「まだ早いから、こっちに来ちゃダメ。」って言われて、引き返したら、生き返ったとかね。 でも、今目の前に三途の川は無い。 だから、おじいさんも、おばあさんも、登場する機会は無い訳で、どうやら、「こっち来ちゃダメ。」なんて、言われてないから、たぶん、僕は、このまま、あの世へ行っちゃうんだろう。 しかし、何処から行けばよいのか見当もつかないな。 それにしても、そろそろ、あの世へ行かなくちゃだな。 三途の川は、目の前に無いっていうことは、光だろう。 人間は死ぬと、天から光がパアーッと差してきて、その光に向かって上って行ったら、見事、あの世にたどり着くらしい。 そう本に書いてあったな。 そう思って、空を見上げたら、天井だ。 そうだ、外に出てみよう。 スルリと天井を抜けて屋根の上に上がる。 さてと、光、光、と。 あ、あった、斜め上空に真っ白に輝く光が見えるよ。 「真上じゃないんかーい。」 ひとり突っ込んでみたけど、死んでるから誰も反応してくれないよ。 と、思ったら、真上に、もうひとつ光があるじゃないか。 そっちの光は、ピンク色だ。 いや、いや、それは聞いていないぞ。 1つは、斜め上に白く輝く光がある。 それで、もう1つは、真上にピンク色の光だ。 位置関係で言ったなら、真上だろう。 天国は、真上にあるイメージじゃないか。 でも、色から言うと、斜め上に見える白い光だろう。 天国と言ったら、白く清らかなイメージだよね。 どっちが天国に通じる光なんだろう。 もう、迷っちゃうじゃないか。 生きている間に読んだ本の、どの本にも、光が2つあるなんて書いてなかったぞ。 そりゃ、光を見て、あの世に行った人が、本を書ける理屈はないさ。 でも、誰かさ、生き返った人がいて、光は2つあるって、そんなことを発表していても、不思議じゃないよね。 どうしようか迷っていると、後から、しわがれた声が聞こえた。 「君も、迷ってるのかね。」 振り向くと、70歳ぐらいの男性が、僕を見て笑っている。 「おじさんも、光が2つ見えるんですか。」 「そうなんだ。光が2つある。で、死んでから、どっちへ行けば正解か、考えている間に、もう50年ちかく、こうやって、空中に浮かんでいるだ。あ、君、俺の事を、おじさんと言うけど、死んだのは20歳ぐらいだから、気持ちは青年なんだけどね。でも、死んでも50年経ったら、おじさんになっちゃったんだな。」 「50年ですか。それは大変ですね。でも、迷いますよね。」 「ああ、迷う。ひょっとしたら、どっちかが天国で、どっちかが地獄かもしれない。そう解釈することもできるだろう。」 「はあ。でも、地獄なら、黒い光が似合いそうですよね。そもそも、地獄に光があるとしたらですけど。」 「そうだよな。普通に考えると、白の光んだんだよな。天国は。でも、あのピンクの光もきになるんだよな。ほら、ピンク色って、ちょっと色っぽい光だろ。あっちに行ったらさ、もう、若い女の子が、ウジャウジャいる訳よ。んでもって、もう、若い女の子と、毎日、イチャイチャできるんだな。そう解釈することも出来なくはないわな。」 「はあ。まあ、そう解釈したい気持ちは解ります。」 「うん、そうだろ。解るだろう。」 「しかし、あの世とやらに、そんな素晴らしい世界があるとも思えないしな。」 「ということは、地獄ですかね。」 「そう解釈することも可能だわな。何せ、俺は、生きている間は、そうとうエッチな人間だったからな。」 「おじさん、そんなにエッチな事してたんですか。」 「いや、してない。」 「してないんですか。」 「ああ、してないけど、エッチな妄想は、相当なもんや。何せ、そんなモテへんかったしな。妄想の中では、もう、あれやで、俺は夜の帝王やったんや。あんなことや、こんなこと、いやあ、聞きたいか。」 「いや、おじさんの、そんなこと聞きたくないです。」 「そうか、それは残念やな。そやけど、あれやで。このピンクの光は、誰でも見えるっちゅう訳やないみたいなんや。普通の人は、白い光だけ見て、すーっと、白い光に吸い込まれていくんや。その顔を見たら、清らかな顔しとるんや。恍惚の表情で吸い上げられていくんや。あれ見たら、やっぱり白い光やと思うんや。冷静に考えたらな。でも、ピンク色は、やっぱり気になるやろ。それに、ピンク色の光は、真上にあるしな。天国は、やっぱり真上やろ。」 「このピンクの光が見えない人もいるんですか。ということは、どういうことなんでしょうね。選ばれた人だけが見える光。僕ら、優等生なんじゃないですかね。だったら、素直にピンク色に吸い込まれた方がいいかもですね。」 「悩むなあ。」 「悩みますね。」 僕とおじさんは、腕組みをして、空を見上げた。 「しかし、もうそろそろ、行かなきゃいけない頃だろうな。」 おじさんが、ため息を1つついて、続けた。 「もう50年も、悩み続けてるんや。その間、素直に白い光に吸い上げられていった人を、もう何千人と見て来たんや。そろそろ、俺も行かなあかんやろ。」 「で、どっちに行くんですか。」 「そうやな。ここは冒険してピンクの光やな。人生は冒険や。そうやろ。」 「そうですね。ピンク色って、何か、ちょっと期待しちゃいますね。」 「そうやろ。女の子と、イチャイチャやな。」 「まあ、そんな感じですよね。」 「じゃ、行ってくるわ。」 そう言って、おじさんは、ピンク色の光に向かって、吸い込まれていった。 と、思ったら、途中で、急に引き返してきたのである。 「ああ、やっぱり緊張する。なんせ、人生の帰路やからな。ピンク色って、普通の素人は選ばへんやろ。やっぱり白にするわ。人生、無難が一番や。じゃ、俺、白に行ってくる。」 と思ったら、途中で、また急に引き返してきた。 「いや、なんかさ、一人やったら不安やし、一緒に行かへん?」 「一緒にって、そんな、若い女の子と一緒やったら行きたいですけど、おじさんとは、それは結構です。遠慮しときますわ。」 「そうか、何か冷たいな。折角、2つの光見える同士が巡り合ったのにさ。でも、仕方ないな。もう、諦めて、白に行ってくるわ。じゃ。」 「もう、いい加減に、諦めて行ってください。きっと、白が天国ですよ。」 「ああ、解った。それで、君は、どっちに行くんや。参考までに聞かせてくれ。」 「おじさんが、白なら、僕は、ピンクで行こうかな。でも、まだ、思案中です。」 「そうか。お互いに、悩むな。じゃ、グッドラック。」 最後に、英語で決めて、おじさんは、白い光に吸われていった。 その光に吸われる瞬間のおじさんの恍惚の表情は、いささか気持ち悪かったが、何となく、白は天国のように思えたのである。 じゃ、そろそろ、僕も決心しなきゃいけないか。 下を見下ろすと、怜子が、まだ僕の枕元に座っている。 泣き疲れたのか、今は、茫然とした表情で、魂が抜けたようだ。 「ごめんな。怜子。まだまだ、名残惜しいけど、行かなくちゃいけないよ。じゃ、怜子、絶対に幸せになってくれな。」 そう言って、僕は、天を見上げた。 考えてみれば、僕は、真面目にコツコツと今まで生きて来たんだ。 何一つ悪いこともした記憶がない。 それなのに、30年程度生きただけで、もう愛する怜子とも別れなきゃいけない。 こんな理不尽があって良いものだろうか。 きっと、前世で、死んだ時には、元来真面目な僕だから、きっと白い光に吸いこまれたはずだ。 ところがどうだ。 確かに、白い光は、天国への光かもしれない。 そして、怜子と巡り合えた時間は、天国だったかもしれない。 でも、こんなに早く死んでしまったんだ。 努力して、ちょっと幸せがやってきたと思ったら、病気になって、愛する人と別れなきゃいけなくなるぐらいなら、いっそ全く別の道にすすむのも悪く無いじゃないか。 行く道が、地獄でも、また死ねば、次に選ぶ道もある。 よし、僕は、ピンク色の光へ行こう。 ひょっとしたら、若い女の子とイチャイチャもあるかもしれないしね。 「じゃ、さようなら、この世界。そして、怜子。」 僕は、空を見上げた。 お、お、すーっと吸い込まれていくよー。 ピンクの光に吸いこまれて行くーっ。 「あれ?向こうに青い光が見えるよ。あんな光見えてたっけ。ちょっと待って、いや、青い光、、、、。でも、もう間に合わない。赤い光に吸いこまれちゃうーっ。」 僕は、筒のような空間を、ぐるぐる回転しながら、吸い上げられていった。 気が付くと、広いお花畑だ。 うん、やっぱりピンク色の光にして良かったかもだな。 だって、お花畑の地獄は無いに違いない。 ここは、天国だろうな。 そう思っていると、「よお、また会ったな。」と声が聞こえた。 見ると、下界で会ったおじさんじゃないか。 「あれ、おじさん、白い光に吸いこまれていきましたよね。」 「ああ、そうや。君も白い光にしたんか。」 「いえ、私は、ピンクの光に吸いこまれたんですよ。」 お互いに不思議な気持ちで向かい合っていると、エコーの掛かったような声がした。 みると、ダラリとした布を身体に引っかけた坊主だ。 「ようこそ。あの世へ。」 「いや、ようこそ、あの世へって言われても、あなたは誰ですか。」 「仏様のようなものや。」 「ようなものって、、。」僕とおじさんが、同時に突っ込んだ。 「ようなものって、何ですか。」 「まあ、仏様で、ええやん。」 「ええやんって、仏様じゃないってことですよね。ようなものだから。それに、ええやんって、大阪の人ですか。」 「いや、だから、人じゃないねん。仏様のようなものやねん。」 まあ、そんなことは、どうでも良いか。 どのみち、僕は、無神論者だし。 目の前の仏様のような存在が、人でも、仏様のようなものでも、神様のようなものでも、同じだ。 「で、僕たちは、これから、どうしたら良いのですか。」 「うん、そこだな。これから、君たちの行く道を教えよう。」 そういった瞬間、僕の隣に、ポトリと30歳ぐらいの女の人が落ちて来た。 「きゃー。びっくりした。あれ、ここお花畑やん。ひょっとして、青の光選んで、正解やったんちゃう。」 若い女の子が現れたことで、急に僕とおじさんの顔がほころぶ。 「こんにちは。僕たちも、いまさっき、ここに来たんですよ。」 「あ、そうなんだ。よろしくおねがいします。」 「さあ、それじゃ。3人まとめて説明するよ。」仏様のようなものが言った。 「いや、その前に、光の説明をしてほしいな。僕たちは、3人とも、違う色の光を選んだんです。でも、今ここに、同じ場所にたどり着いた。これって、どういうことですか。」 「あ、そこだよね。あれ、面白かったかな。あれ、わしが考えたんじゃ。まあ、死んだ後にも、ワクワク感があったほうが、楽しいかなと思ってな。どうや、楽しかったっじゃろ。」 すると、おじさんが、いささか不機嫌な様子で言った。 「あのねえ。あの違う色の光のお陰で、あたしは、50年も立ち往生しとったんですよ。どうしてくれるんですか。」 「まあ、ええやん。どうせ死んでるんだ。50年経っても、お腹も減れへんかったじゃろ。それに、あそこは、時間も、あるようで、無い世界じゃ。まあ、これからスピードを上げたらええこっちゃ。」 おじさんは、納得したような、しないような表情で、僕を見て、首を傾げた。 「さあ、それじゃ、説明するよ。」 仏様のようなものは、嬉しそうに話し出す。 「このお花畑の真ん中に1本の道があるじゃろ。その先を見るがいい。お城のような建物があるね。あそこに向かって歩いて行きなさい。」 すると、女の子が聞いた。 「お城って、3つありますけど、どのお城に行けばいいんですか。」 すると、仏様のようなものは、にやりと笑って、「うん、そこじゃ。あのお城の手前に、道が3つに分かれたところがある。そこからは、自分の好きな道に進めばいいんじゃ。それによって、未来が決まる。」 「えーっ。じゃ、どのお城に行くかで、天国とか地獄とか、決まるんですか。」女の子が確認した。 「うーん。そこはな。まあ、行ってのお楽しみじゃ。」 「いややん。今知りたいわ。ねえ、教えてー。」 女の子は、仏様のようなものに、身体を密着させた。 「いや、そんなことされたら、、。そうか、それじゃ、ちょっとだけ教えちゃおうかな。」 鼻の下を伸ばしながら、デレデレ相好を崩した。 「あ、仏様のようなものも、若い女の子に弱いんや。」 おじさんが、僕に言ったので、僕も大きくうなずいた。 「あのお城に行ったらな、また、そこから道が続いてるんや。確か、4つ道があったかな。その先に行ったら、またお城がある。」 「ちょ、ちょ、ちょっと待って。その先にも、ひょっとして、また道があったりして。」 僕が、びっくりして聞いた。 「良いところに気が付いたね。」 「いや、誰でも気が付きますわ。」 「そうか。いくつ道が分かれてるか、わしも知らんけど。何度も道を選択することになるな。詰まりは、人生とは、一瞬、一瞬の選択の連続っちゅうことや。」 それを聞いて、僕は疑問に思った。 「でも、さっき、光を選んで吸い込まれたんだけど、結局、同じ場所にたどり着いたんですよね。この先も、何回も選択を繰り返しても、最終的には、同じ場所にたどり着くとか。そんなんだったら、ここにいる方が楽かもだなあ。」 それを聞いたおじさんも、「そりゃそうやな。そんな、何回も選択するの面倒くさいな。」 「ほんまやわ。どっかに当たりが無いと、行く気出ないよ。」女の子が続けた。 3人、顔を見合わせる。 そして、僕は決めた。 「あのう。僕は、このまま、ここにいることにします。」 すると、仏様のようなものは、急に焦りだして、「いや、ここは進まなきゃいけないシステムになってるんだよ。それは、困るよ。」 「でも、進まないって選択肢もあるでしょ。見たら、ここはお花畑で良い匂いもするし、ポカポカ温かいし。それに、死んでるから、お腹も減らないしね。別に、ここで、ゴロゴロ昼寝してる方が、楽しそうだもん。」 「あ、俺もそうする。」 「私も賛成。」 おじさんと、女の子が、僕に続いた。 「どうしても、進まんか。」 仏様のようなものが、確認した。 「はい。」3人の返事は同じだ。 「よし。合格だ。」 実はな、ここで君たちを試していたんだ。 選択するということは、詰まりは、それもまた、欲につながるんじゃ。 あれも欲しい、これも欲しいという気持ちが、選択するときに、考えてしまうじゃろ。あれは、人より自分が得をしたいという気持ちの表れなんじゃ。ここにいることを選択したのは、現状で幸せを感じることが出来るっちゅうことや。今いる場所が、自分の居場所。そう思えるのは、素晴らしいことやで。だから、合格なんや。じゃ、次のステージで、楽しくやってちょーだい。」 仏様のようなひとは、上から目線で3人に言った。 「だから、僕は、この場所で、昼寝をして過ごしますって。どこへも行きません。」 3人も同じ考えだ。 「いや、それは、困るねん。わしも仏様のようなものなんやけど、仏様にも、上には上がおってな。その上からの命令なんや、これは。だから、君たちが次のステージ行けへんかったら、わしが怒られるねん。困るねん。」 「そんなこと言ったって、ここ快適そうだし。」 「仏様の世界も、上下関係あるんですね。大変ですね。」女の子が同情した。 「だから、お願いや。この通りや。次のステージに行って。なっ。」 と、仏様のようなものが3人に向かって合掌をした。」 「仏様のようなものに、拝まれたで。」 おじさんが、半笑いで呟く。 「じゃ、仏様のようなものさんも、一緒にここで、昼寝でもして過ごしましょうよ。」 女の子が言った。 仏様のような人は、腕組みをして考えていたが口を開いた。 「そうだな。何となく、ここは天国に近いかもしれへんな。仏面することも疲れたわ。じゃ、わしも、ここで昼寝していようかな。なあ、わしも仲間に入れてくれるか。」 「はは。大歓迎ですよ。」3人は、仏様のようなものの肩を叩いた。 すると、急に仏様のようなものの顔が、活き活きと輝きだした。 そして、僕と、おじさんと、女の子と、仏様のようなものは、ごろりとお花畑に横になった。 甘い鼻の香がして、ポカポカと温かく、ちっさな雲が空を流れていた。
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