拾う男

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半アマチュアのクラブだったから、選手に報酬を払う代わりに、家賃無料でモチベーションを高め合える共同生活を提供するというのがクラブ側の精一杯の努力だったのだ。 だから各自の食費は自己負担。栄養管理も自己責任。 遠征試合の旅費も半分は自腹だ。 生活費を稼ぐために皆、仕事を持っている。 樹も高校を卒業して自立をしたのだからなるべく親には頼らないと決めていた。 けれど試合があれば休まなければならないから、どうしても融通の利く仕事しか出来ない。 結局、隙間隙間に派遣として体力資本の仕事を中心に働いていた。 人一倍責任感が強い樹は、本当は日雇いの『顔』の無い仕事は嫌だった。 なんの仕事であれ腰を据えて取り組みたいと思う。 でもそれはいつか嫌でも直面することだ。 いつまでもサッカー選手でいることは出来ないのだから。 今しか出来ないことは今やろう。 それが樹の決心だ。 オンボロでもタダで住まわせて貰える。 バラックでは狭いながらも、蹴り損なったボールでご近所に迷惑を掛ける心配も要らない。
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