クリスマスの朝に

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 がたごとと、玄関で物音がする。 がらりと戸が開いて、お父さんが帰ってきた。 「今夜はしばれるぞ」  お帰りなさいとお母さん。  お父さんは、持っていた紙袋をお母さんに手渡してから、コートを脱いだ。はめていた帽子と手袋を脱ぎ、ペチカの上の耐熱タイルに置く。ついていた雪がみるみる溶け出し水滴になった。 「お父さんが見て見て」私は窓を指差た。  お父さんはそうかそうかと頷き、それよりもっと大切なことがあるじゃないかと言わんばかりに、お母さんがテーブルにい置いた紙袋の中から四角い箱を取り出した。 「今夜のケーキだ」    クリスマスケーキ!  私は心踊らせはしゃぎ回った。  そう今夜は待ちにまったクリスマスイブ。ケーキにご馳走、そしてプレゼント。年に一度の特別な夜だった。  親子三人食卓を囲む。  クリスマスのご馳走はグリル焼きした鳥の骨付き肉。付け合わせにほうれん草ソテー、ポテトサラダ。味噌汁にご飯。  豪華なクリスマスディナーだ。  この後に食べるケーキが楽しみだった。  それよりも、もっと楽しみだったのはクリスマスプレゼント。  今年は何が貰えるのだろう。期待に胸がふくらみ、私は心が弾んだ。  記憶を遡る限り、最初のクリスマスプレゼントは動く犬のぬいぐるみだった。  幼稚園はコンロにオーブンまでついていたキッチンセット。  小学一年生はリカちゃん人形。  三年生はゲーム用の着せ替えプレミアムカード。部屋の中は毎年のおもちゃでいっぱいだった。  そして、六年生になった今年は何がもらえるのだろう。  私は毎日の新聞に入るおもちゃのチラシを見るのが楽しみでならなかった。  今年はお子様専用の編み機械かミシンが欲しいかった。お母さんにそれとなく伝えた。  早くお楽しみの時間がこないかな。  でも、その前にケーキ!ケーキ!  お母さんが暖房のない部屋からケーキの箱を持ってきた。  テーブルの前に置く。  箱の蓋を開く。  チョコレートケーキが入っていた。  絞り出したチョコレートクリームの上に赤色のルビーみたいなチェリーがぐるりと乗っている。  飾り文字のメリークリスマスのプレート。真ん中にチョコレート菓子で出来た三つ枝燭台が乗っていた。  目を見張るほどの豪華なケーキ。 食べてしまうのがもったいないくらいだ。  お父さんは燭台の枝に赤いロウソクを三本立てライターで火をつける。  お母さんは電気を消した。  ゆらゆら揺れるロウソクの小さな灯り。暗がりにチカチカと赤や緑、黄輝くに輝くクリスマスツリーの電飾。ペチカストーブの薪は明々と燃え、柔らかな温かさが家族を包み込む。    なんて素敵なんだろう──   「ほら、ノリちゃん早く火を消さないとロウソク立てが溶けてしまうよ」  見とれているうちに、熱で燭台が傾いてきた。私は慌てて火を吹き消した。  うっすらと煙の匂い。  お母さんが電気をつける。  それから六分の一の大きさに切り分け、私の目の前に皿を置いた。  サンタクロースとクリスマスプレートも乗っている。  ロウソクが垂れてしまった燭台はお父さんのところへ。  お母さんはトナカイの角をカリカリいわせながらかじりついた。    
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