怪しいやつら

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「ヘイ、イラッシャイ!」 外国人アルバイト店員の声が、焼き魚の匂いの立ち込める店内に弾ける。宵の口の居酒屋は、平成最後の日を惜しみ、明日5月1日から始まる新しい令和を祝おうという人々で賑わっていた。 暖簾(のれん)をくぐったのは、決算作業に目処がついて街に繰り出したNOMURA建設の総務課と経理課の面々8名。世間のゴールデンウイークに合わせて休みを取った経理課長の野村容子と、二人の娘の子育てに忙しい内藤希美の顔だけがなかった。 「美智さんだぁ」 聞き覚えのある女の声がする。 「おっ、皆さんお揃いで……。みっちゃんも一緒だなんて珍しいな」 それもまた、聞き覚えのある野太い声だった。 店舗の中ほどに現場監督の木村義弘ととび職の大村チヅル、重機のオペレーターをしている仲田弥生の顔があった。早くから飲んでいるらしく、テーブルには空いた食器が並んでいた。 「みんなもいたのね」 総務課資産管理係の佐久間美智は、チヅルと弥生に向かって小さく手を振った。
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