<4・沈黙の鳥籠>

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「アニメや漫画がお好きなら想像がつくでしょう?魔法やらなんやらを、都会のど真ん中でぶっぱなしたらどんなことになるか。最低でも騒ぎになるのは免れられません。怪我人が出なくても、凄まじいスピードでの移動やらバトルやらが目撃されたなら後々面倒なことになります。なんせ、僕らは物語の転生者とはいえ、現代では普通に人間としての生活があるわけですからね」  そりゃそうだ、と凛音も頷く。異世界ファンタジーが異世界たるのは、現実と切り離された夢の世界を見てみたいという現代人の願望もあるだろうが――同じだけ、現実でやらかすと色々と問題のある派手なバトルを実現させたいからというのもあるに違いない。なんせ――自分で言っていても悲しくなるが、東京というヤツは狭いのだ。建物も人もびっしりと存在しているわけで。 「僕も物語の端くれ……一応はその力を使うことができます。今から貴女にもお見せしましょう」  駅前広場。人で溢れ、みんなが待ち合わせに使う犬の銅像の前のベンチに座って――涼貴は呟いた。 「“沈黙の鳥籠(サイレント・ケージ)”発動……!」  刹那――周囲の景色が、反転した。  いや、正確には目の前の光景が左右逆になったとか、モノクロになったなんてわかりやすいものではないのだが。少なくとも凛音には、すべての音が裏側に“食われた”ような、まるで吸い込まれて裏返ったような――そんな感覚を覚えたのである。  空気が、どこか重たい。  何よりさっきまですぐ傍を歩いていた青年も、ビラ配りをしていた女性も、むっすりとした顔でスマホを睨んでいた少女も手を繋いだ家族連れも――みんなみんな、一瞬にして消失してしまっている。  雑踏の中にいたはずなのに、今は自分と涼貴の姿しかない。  凛音はここでやっと理解した。何故涼貴がこんな場所にわざわざ自分を連れてきたのか。――この、明らかに非現実だとわかる光景を、はっきりと自分に見せるためであったのだということが。なるほど、人気がない静かな場所でやっても、はっきりとした効果は得られなかったに違いない。それこそ自分の部屋でやっても意味がなかったことだろう。
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