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「ほ、ほんとに、こんなのあるんだ……!?」
凛音の喉から漏れたのはそんな、とにかくありきたりで捻りもなにもない感想だけである。沈黙の、鳥籠。一部の空間だけが切り取られた状態。これでもう、半信半疑だった全てを納得せざるを得なくなった。
自分に、本当に特別な力があるかどうかなんてわからない。でも。
信じられないような現実は確かに今――目の前に、あるのだ。
「現実の世界の裏側に、よく似たもう一つの空間を形成し……そちらに、特定の人間だけを転送する。それが、この鳥籠の能力です。敵と戦闘をしていて周囲を巻き込みたくない時などに便利ですよ。同時に、相手を遠方へ逃がさない効果もあります」
「ふへえ……私も使えるようになるのか?」
「ええ、きちんとした覚醒をすれば……固有の能力と一緒に、貴女にもね」
と、ここまで説明を聞いて凛音は思った。いきなり有無を言わさず瑠衣を攫ったりとやりたい放題してくれたピーターパンだが、この能力を使ったということは他の一般人を巻き込まないようにした可能性が高い。
つまり、根は悪い奴ではないのかもしれなかった。世界が乗っ取られるのを防ぐため、“魔王”と戦おうとしているのだから、そもそも悪人ではないとも言えるが。
「この能力は便利ですが、対象に指定した人物が誰かに触れていると、その人物も一緒に反転世界に引っ張り込んでしまうことがあります。多分、ピータパンは本来加賀美さんだけ引きずりこみたかったところ、貴女と接触していたせいで貴女に目撃される羽目になってしまった可能性が高いかと。まあ、未覚醒とはいえ“物語”は引き合う傾向にありますし、それで無意識に自分から踏み込んだ可能性もありますけどね」
さて、と言いながら涼貴はそっと自分の左手を差し出し――その上に、何かを出現させてみせた。水色の光がきらきらと踊り、やがて西洋風の、馬に乗った兵隊達を形作る。
「ご紹介しましょう。僕の……“シンデレラ”の能力の一つ。“王廷騎士団”。同じ物語の転生者達を捜すために用いた僕の能力です。高い調査能力があります」
「へえ」
思わず近づいて、まじまじと見つめてしまう。デフォルメされた可愛らしい白馬に、銀色の甲冑を纏った勇ましい騎士が乗っている。ただし、その騎士もアニメのようにデフォルメされたデザインなので、かっこいいというよりは非常に可愛らしく目に映る。
何で王子の騎士、と聞いてピンと来た。物語というからには、基本的に自分達の能力は、その物語に準じたものやそこからイメージされたものになるのかもしれない。彼は自らを“シンデレラ”と言っていた。ガラスの靴を落として消えた娘を探し、王子は自らの足で兵を率いて、片っ端から同じくらいの年頃の娘でガラスの靴が合う少女を捜して回っていたはずだ。少なくとも、自分が知るシンデレラはそういうストーリーである。
なるほど、そこをモチーフにしたというのなら。シンデレラの力が“調査力”に結びつくというのも、わからない話ではなかった。
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