<5・目覚めの儀式>

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<5・目覚めの儀式>

 ちょっと待て、と思う。思ったが、凛音の体はツッコミよりも先に――そう反射的に、涼貴から距離を取っていた。これでも一応、短期間でころころ変えているとはいえ、様々なスポーツや格闘技の類を齧ってきてはいるのである。 「ちょ、ちょ、待って、待てってば!」  彼が言いたいことはわかる。少年漫画などでもありがちな展開だ、ピンチに呼応して眠っている力が目覚めて主人公がヒーローに!なんてことは。  だが自分は、特別な世界で生きてきた特殊な人間でもなんでもない。突然よくわからない御伽噺の存在に襲撃されて、それを目撃したせいでよくわからん話を聞かされる羽目になった普通の女だ。しかもそろそろ若いとは言えない年である――まだ一応二十代ではあるけども。そろそろお姫様を夢見るような年齢でもないというか、それを口にしたら痛いくらいのお年頃。それがどうして、いきなり美少年に魔法っぽい力で襲われる展開になるのか。 ――いやこれが襲撃(物理)じゃなくて襲撃(エッチ)な方向だったら約得だったかもしれないけど……って何考えてんだ私は!私の年でこのコに手を出したら犯罪だから!!  自分で考えた想像に自分でツッコミを入れる凛音。そんな凛音の気持ちをよそに、ほう、とまるで感嘆したように息を吐く涼貴である。 「まだ覚醒していないのに、反射的に飛び退くなんて。多少は場馴れしてらっしゃるのでしょうか?そういえば、サッカーとか剣道とか、いろいろやられたことがあるんでしたっけね」 「すっごいな、そんなとこまで調べたのか……ってそうじゃなくて!マジで私、これから襲われるの?ねえ?物理で?」 「はい、物理で。というかそれ以外に何かあるんですか?」  無いですねハイ!と思いつつ身構えるだけ身構える。テンパりこそしたものの、想像したよりは体が落ち着いていた。どうせこの異空間で逃げられるはずもない、と悟っただけなのかもしれないけれど。  とりあえず、マジでおねショタ展開なんぞ想像もしてなさそうな彼を見て、そっち方面でからかうのは全力でよそうと心に誓う凛音である。――自分がこの状況を生き抜けたなら、の話だが。
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