<5・目覚めの儀式>

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「僕だって好き好んでこういうことをしてるんじゃないですよ。でも、時間がないんです。……僕達しか、戦える者はいないんですから。実際僕も……ある人が救ってくれたおかげで、今の力に目覚めたようなものですから」  一瞬、涼貴の眼が切なげに細められる。まるで胸に刺さったままの刺に触れたような、その痛みを思い出したかのような表情で。 「さあ、行きますよ……“異説転装(いせつてんそう)・シンデレラ”!」  本当に、夢でも見ているのだろうか――自分は。彼が地面を蹴って高く飛び上がった瞬間、その体が光に包まれる。水色の、神聖だと一目で分かるような美しい光。そして彼が再び地面に着地した時には、彼の“転装”は完了していた。  そこに立っていたのは眼鏡をかけた黒髪の男子高校生ではなく――やや青さを増した長い髪を靡かせ、水色のドレスのようなものを纏った、美しい少女。いうなれば、アニメでよく出てくる“魔法少女”と言われた時、真っ先に思い浮かびそうな姿だとでも言えばいいだろうか。凛と背筋を伸ばして立てば、水色のキラキラしたミニスカートから覗く太ももの白さが非常に眩しい。さらに豊満な胸元とくれば――凛音が絶句するのも無理からぬことではあるだろう。  どう見ても、今。少年が少女に変身してしまったのだから。 「へ、変身したあ!?ていうか女体化したあ!?」 「その言い方やめてくれます!?僕だって好きでこんなカッコしてるわけじゃないんですから!」  やや高くなった声で顔を赤くしつつ、律儀にツッコミ返してくる涼貴。よく見ればそのやや鋭い目つきや涼しげな顔立ちには、元の彼の面影がしっかりと残っている。どうやら見た目が変わったからといって、人格が入れ替わったりしたわけではないらしい。 「物語の力を全開にすると、元の物語を反映した姿に変わってしまうんです。この状態じゃないと全力で戦えないから仕方ないんですよ!……僕が前世が女性で、シンデレラだったせいでこんなことになってるだけです。ちなみに、普通に逆バージョンとかもありえるんですからね?か弱い女の子がムキムキのオッサンとかオオカミとかになっちゃうこともあるんですから、そのたびにドン引いたりしてたらキリないんですからねわかります!?」 「わ、わかります。わかりましたんで落ち着いてくださいー……!」
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