<5・目覚めの儀式>

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 よほど凛音の言い方が癪に触ったのか、あるいはよっぽど恥ずかしいのか、早口でまくし立ててくる涼貴である。確かに、年頃の男の子が魔法少女みたいな姿になってしまうのは普通に抵抗があるだろう。いっそまるで違う顔立ちになれたならともかく、見る者が見ればきっちり涼貴だとわかってしまう程度の変身である。  そして同時に思った。――もしや前世とやらが恐らく同性であろう自分は、かなりラッキーな方だったのではなかろうか、と。 「さて、コメディやってる暇はないので。さくっと始めてしまいましょうか」  そして残念ながら、このままの流れで色々終わりにしてしまいましょう、とはならないらしい。やっぱり来るのね、と凛音は顔を引きつらせる。彼――今は彼女?涼貴が背中に背負った水色の弓を構え、そこに矢を番えてきたからだ。  弓矢が武器なのか、と思って首をひねる凛音。確かさっき、彼は“自分は魔法と補助専門だ”みたいなことを言っていなかっただろうか。それが、魔法の杖やステッキではなく、弓矢での攻撃で来るのか? 「“硝子の雨(レイン・オブ・グラス)”!」  しかし、そんなことを考えていられたのはこの時までだった。彼が撃ってきたのは凛音ではなく――自分達の斜め上の空であったのだから。  どこに向けて、と思った矢先。凛音の頭上に飛んだ矢が弾け、いくつもの煌く雨となって降り注いだのである。これはヤバすぎる、と思った時には凛音は後ろに飛んでいた。次の瞬間、凛音が先ほどまで立っていた位置に、鋭い硝子の破片のようなものがざくざくと大量に降り注いでくる。 「う、うっそお?」  ちょっと待て、と何度目になるかもわからぬツッコミを入れた。今のをまともに食らっていたら、全身がズタズタに引き裂けていたのではなかろうか。覚醒させるためとかなんとか言っていたが、いくらなんでも冗談が過ぎる攻撃である。 「命の危機を感じていただく、と言ったでしょう?申し訳ありませんが、多少は痛い目を見て頂かないと覚醒に繋がらないのです。荒療治なのは重々承知していますがね」  まあ、それでも褒めておきますよ、と上から目線の涼貴。
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